妻の悲痛な訴えを、夫は「覚えていない」


「結婚2年目くらいまでは、実は何度かセックスについて妻から色々言われたことがありました。寝る前にたぶん誘ってるな、という行動に出ることもあったし、『もう少し女として見られたい』『子どもが欲しい』『あなたは子どものこと考えてる?』と言われたりもしました」

そのとき俊哉さんはどう反応したのか? と伺うと、驚くことに、彼は俯きながら「あまり覚えていない」と小さく答えました。

「妻を鬱陶しく思ったとかイライラしたとか、ヤバいと思ったとか、そういうのでもなく……ただ、性欲が湧かないのに、セックスがしたい妻と向き合うのがちょっとキツかったんだと思います。何となく宥めたり、他の話題に変えてその場を凌いでた気がします。彼女は主張が強いタイプじゃないので、それで怒ったり、その後気まずくなったりすることも特になくて。

一度旅行先で『どうして何もしないで寝ちゃうの?』と泣かれたときは流石に焦りましたが、たしか『疲れててごめん』と、妻を抱きしめて寝て朝になると、また彼女は普通の状態に戻っていました」

子作りに関しても、俊哉さんは深く考えていなかったそうです。作らないというわけではないし、いつかきっかけやタイミングがあればきちんと考える。そんなスタンスは紀香さんに伝えていたはずと言いますが(ただし、やはりあまり覚えていないよう)、期限のない「いつか」は、時にはっきりとした拒絶よりも酷であるように思います。

 

ちなみに4年間ものセックスレス生活の間、俊哉さんは性欲が一切なかったのかというと、そういう訳ではなかったよう。「たまに、そういう関係になる女の子はいました」と絞り出すような声で答えてくれました。そして、はっきりとは言わないまでも、妻は夫の浮気に気づいていたようです。

 

筆者の憶測ですが、すでに数年前、紀香さんはもう限界を超えていたのではないかと思います。少し話を戻すと、結婚に関しても『メリットがない』『他にいるかも』という俊哉さんの態度は、表面的には順調な交際とはいえ、彼女はそれを察して長い間内に溜めていた可能性もある気がしました。

結婚生活などのパートナーシップにおいて、女性側の訴えに男性が向き合わず、気づいた時には時すでに遅し……という話はよく聞きます。これは男女の物事の捉え方の違いなのでしょうか。

お話を伺う限りでは、セックスレスについて俊哉さんに悪気は一切なく、たとえ浮気をしようと、それは彼の中では家庭とは全く別物。むしろ彼は彼なりに妻を大事にしており、妻が泣いていたにも関わらず二人の関係は順調だと信じていました。別居になるまで、セックスレスが「夫婦二人の問題」として扱われ、解決に向かうことはなかったのです。

俊哉さんが言う通り、妻の紀香さんは主張が強いタイプでなく、我慢強く優しい性格なのでしょう。その後、夫婦の間にセックスの話題が上がることはなく年月は経過。

そして、妻にとっては決定的な、夫にとっては些細な出来事が起きます。

「これは別居後の話し合いで知ったことですが……。彼女が家を出る数ヵ月前に、僕が家の賃貸契約を更新したんです。特に引っ越す必要もなかったし、時期が来たので事務的に手続きをしました。

その翌日、仕事中に『部屋を更新するってことは、そういうことだよね』というLINEが妻から届きました。文脈がわからず、『え? どういう意味?』と返しましたが返事はなく。その後、彼女に特に変わった様子はなかったので、そのまま同じ1LDKの部屋に住むことになりましたが、あのとき彼女は『この人は子どもを作る気がない』と、僕を見限ったと……」

さすがに俊哉さんも鈍感すぎるのではと思ってしまいますが、彼女はこのとき、一人離婚の決意を固めていたのでした。

後編では、別居中の妻に恋人らしき人物が現れた衝撃、「モラハラだった」と指摘され食事も喉を通らなくなってしまった夫の変化、そして、セックスレス解消のための俊哉さんなりの見解を語っていただきます。
 

写真/Shutterstock
取材・構成・文/山本理沙

 

 

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