豹変する女


奇妙に、胃のあたりがむかむかしてきた。心よりも先に、体が、この女に怒り始めていた。

アユミは一方的に話したあと、急に冷めた目になり、スマホをいじる。物凄い速さで文字を打ち込んでいるが、送信先はお手洗いにいるキミコだろう。獲物の「洗脳具合」を報告して、作戦を立てているに違いない。この2人は最初から結託しているはずだ。

「じゃあ、キミコさんが戻ってきたら、チサトちゃんのほうから『サプリを半年分買わせてください』ってお願いするのよ。『秘密の集まり』にも参加させてくれませんかって」

「は、半年分ですか? それはちょっと……派遣先が変わったら、思うように残業ができなくなってしまって、生活が苦しいんです」

チサトちゃんが、ささやかな反抗に出る。いいぞ、いいぞ。言ってやれ。

「あんたねえ……まだわからないの? そういうせこい根性だから、何やってもうまくいかないんでしょうが。私が親切で言ってあげてるのに、チャンスの女神の前髪、掴まないでどうするの? ずっとそうやっておどおどして暮らすの?」

 

チサトちゃんはまた元の角度に俯いて、黙ってしまった。

 

「まあいいわ。いつまでも損ばっかりの人生なのは自業自得。頭を冷やして、ちょっと考えてみれば?」

アユミはそう言い捨てると、スマホとたばこを持って、ファミレスの外に出た。チサトちゃんはますます顔色を白くして、動揺している。

店内のBGMが、小さく能天気に流れていた。

「……サインするの?」

私は手元のPCで作業しながら、隣のテーブルに話しかけた。チサトちゃんがぎょっとしたようにこちらを見る。

「サプリでアトピーがそんなに良くなるなら、なにもあなたに押し売りしなくても飛ぶように売れるんじゃない? 半年まとめて売りつける必要もないと思うな。どうしても断れない理由があるなら、買ってからすぐ申請したらクーリングオフできるよ。ググったら出て来るから、ちゃんと調べたほうがいいよ」

いつ2人が戻ってくるかわからない。私は不躾だとは思ったが、とりあえず要点のみ伝えた。

「……私、気が弱くて、こういうの断れないんです。頭も悪いし。

何やってもうまくいかないって、本当にその通り。インチキだってわかってるけど……誰かが解決策と行き先を決めてくれるなら、それ多分、自分で決めるよりはマシな気がする」
 

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明かされる本心が、胸に痛い、都会のワンシーン。
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