自分が自分を誤解している
「そうなんだ。そういう発想もあるのねえ」
私はカタカタとPCで作業しながら、頷いた。
「まあ、人生の船頭は自分しかいないと思うけどなあ。誰かの言う通りにしても、船が沈んだからって責任取ってくれないよ」
「……それはあなたが自分に自信があるから、そう思うんです。こんな時間までPCでこれ見よがしにお仕事して、やりがいがある仕事なんでしょうね。私とは違うわ。何もできない、誰にも選んでもらえない私とは」
私は原稿を書く手を止めた。
「……あなた、自分が思ってるよりも結構、気が強いと思うけどな。私、好きだよ、そういうひと」
私はバッグから名刺を取り出して、彼女に差し出した。
「よくここで原稿書いてるの。いつかまた、会えたら」
会えたら、どうしようというのだろう。それでも私は、彼女にサインを出したかった。
この世のどこかに、通りすがりだとしても、彼女を心配している人間がいることを。
私は、「顛末」を見届けないまま席を立った。正直に言えば、迷う気持ちもあったけれど、やっぱりここで私が何か口をはさんでも問題は解決しないような気がした。
店を出るとき、ちらと振り返る。チサトちゃんは相変わらずそこに座って、じっと前を見ていた。でも、目にはどこか力が戻っている。
視線がぶつかる。私はまたね、と口だけ動かしてファミレスを出た。
夜道を歩きながら、空想する。
もし、彼女が連絡をくれたら、また会えたら。
私たちは楽しく、夜のファミレスでおしゃべりをするだろう。都会の片隅で、ひっそりと懸命生きる女子同士。深夜の、ささやかすぎる女子会。そこで語り合うことができるはずだ。時間を気にせず、欲得もなく、のんびりと。
きっと、できる。
私は、彼女からの連絡を待っている。
3年ぶりに訪れた祖母の家で、幼い頃に見た「恐ろしい光景」を思い出し……?
春の宵、ゾクリとする物語はいかがでしょう?
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構成/山本理沙
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