コロナ禍で一度は中止に。でも、おかげでもっと今の時代らしい舞台になった
実はこの『ピエタ』の舞台公演は、当初は2020年10月に上演される予定でした。その当時、予定されていた多くの舞台がそうだったように、コロナ禍の影響で公演は中止に。でもそこから、「他人のことばっかり気になっちゃう」という小泉さんらしい展開が始まります。
小泉:中止にした時点で赤字だったんで、どうせ赤字なら気持ちのいい赤字のほうがいいなと思ったし、そのスケジュールを開けてもらった方たち――収益を失った劇場、発表の場を失った役者さんたち、仕事を失ったスタッフ――に多少なりとも補償もしたかったんですよね。それで予定していた3週間、毎日日替わりでフェスみたいなことをやろうよ、って。コロナの最中だから席の間は開けてるし、どうせドアも閉めないなら、子供同伴でOKにして、音楽の日とか、子供たちのための演劇とか朗読とか、本多劇場を1日限りのクラブにするDJイベントとか。私の仲間たちを動員していろいろやりました。来てくれたお母さんが「子供ができてから、劇場になんて全然来られなかったから」って泣いたりして、すごいいいムードで楽しかった……んですけど、すっごい疲れました(笑)。私を含めて3人しか会社にいなかったから、 終わった時は抜け殻、もうボロボロみたいな感じで、ちょっと休もうって。私が復活したら連絡するから、それまで休んでていいからって(笑)。
どうせ赤字なら気持ちのいい赤字。その発想の転換は「自分の損得勘定」とはまったく無関係で、それゆえにエピソード全体に5月の風のような清々しさが漂います。同時に、それが小泉今日子さん自身の前向きなパワーにもなっているような。実はそれ以前にも頓挫しかけたこの企画について、小泉さんはその前向きさで語ります。
小泉:この企画って、何度もやろうとしては、でも、なんか今じゃないという感じになってきたもので。コロナの時もそうだったんです。でもそうやって先延ばしになったことで、より今日的な企画になった気がするんです。コロナみたいな経験をみんなが共有して、悲しい思いもたくさんあったと思うんですが、それゆえに自分のことや社会のことに対して今まで以上に目が向くようになった今の時代だからこそ、この物語が語ることをより深くとらえてもらえるのではと。作品の方が、1番いいタイミングを待っていた、外の力でストップされていたんじゃなくて、「ピエタ」にストップされていたんじゃないかと思うんです。
Comment