退職という雪崩が起きる瞬間の“臨界点”を見極める!
高橋 後藤さんの場合、どういうタイミングで立ち止まって考えられたんですか?
後藤 じわじわと蓄積してきているものを、あるとき、俯瞰して見直すというか、私は雪崩が起きるのに近いと思っているんです。退職を雪崩にたとえると退職が悪いイメージになってしまうかもしれませんが、力学的イメージで考えてもらうと、雪崩が最後に起きるときは、大きな石が勢いよく降ってきたわけではなく、普通にしんしんと雪が降り続けている中で、いよいよ限界がきてゴソッと崩れるわけですよ。
ですから、最後に降った雪自体が決め手になったわけではなく、ときには小さな石が落ちてきて、それが決め手になるかもしれないですけれど、重要なのは、いろいろと積み重なったものの臨界点だということです。それが今、どれぐらい雪が積もってきているかを、本当1カ月に1回、3カ月に1回でもレビューしてみて、あのときと比べると辞めた方がいい方に傾いてるな、とかね。レビューするのは、別に3時間かけて机で悩まなくてもよくて、風呂に入りながら3分でもいいんですけれど、そういう時間自体をなるべく持つようにして、今がどういうステージかを考えましたね。
「お金を稼ぐことと幸せが同じでないと気づいたため」アンダーアーマー日本総代理店を退職した実業家・安田秀一さん
高橋 安田さんとあるご縁でお話しさせていただく機会があって、その頃に、会社辞めるって決められたとお聞きしました。
安田 もともと辞めるのは決まってたんです、実は。僕自身、次のCEOを誰にするのかとか、そういう議論はずっと続けていたので、それを公に話せるようになったのがあのタイミングという感じだったんです。
高橋 まずはそのあたりからお聞きしますと、なんで会社辞めるんですか?
安田 本当のことを言うと、“宇宙の力”でしょうね。
高橋 え!? それって、“スピ(リチュアル)”ってる話ですか(笑)?
安田 スピってる話ですね。やっぱり、世の中ってスピっているんですよ。どうしてスピっているかというと、現実の中で精一杯やってるからなんです。現実社会って、自分の手ではどうにもならないことがたくさんあるじゃないですか。それが良い方向に傾くか、変な方向に傾くかって、スピリチュアル以外の何物でもないです。
僕は資本主義の最前線で生きてきましたけど、資本主義は欲望との戦いです。資本主義社会で働くというのはどういうことかというと、〝心の中に荒馬を飼い慣らすことだ〟って僕は言っているんです。
高橋 それはどういうことですか? 原始的な欲望ということですか?
安田 荒馬の尻を叩いて暴れさせて、それを乗りこなす――それが僕の中では資本主義のイメージです。この荒馬が弱くても面白くないし、強すぎると落ちてしまう。だから、乗りこなす技術をしっかり身につけないといけない。その技術の一つがスピリチュアルな部分だったりするのかなと思いますね。
高橋 会社の規模としては、安田さんが離れると決めた時点の売り上げと利益はどれくらいだったんですか?
安田 2020年の売り上げが約320億円で、利益が12億円くらいですね。2020年はみんなコロナ禍で赤字になりましたけれど、僕らはその前年にリストラに手をつけて、26年間でその年だけ赤字だったんですけれど、翌年、世の中が一番ひどいときに黒字になったので、〝やっぱり俺ってやるな!〞という気はしましたよ(笑)。
でも、同時にもうそろそろ辞めどきかなっていう感じでもありました。
高橋 コロナ禍でも業績が回復したんですね。それでも辞めるという決断をするにはどういう力学が働いていたんですか?
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