母体の危険に遭遇し、警鐘を鳴らす医師も
河合が以前取材をしたとき、海外で卵子提供を受けて帰国して出産した人たちのほとんどは40代で、中には50代の人もいました。
そうした人たちを多く受け入れていた都心部の病院に行くと、海外で卵子提供を受けた超高齢出産の人たちの妊娠経過は、胎盤の異常、妊娠高血圧症候群などが驚くほど多く、非常に危険性の高いものでした。母体の命が危なかったケースを経験した医師が、学会などで警鐘を鳴らす場面もありました。
こうした背景から、日本生殖医学会の倫理委員会は2013年に『未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存に関するガイドライン』を出し、「未受精卵子等の採取時の年齢は、40歳以上は推奨できない。また凍結保存した未受精卵子等の使用時の年齢は、45歳以上は推奨できない」と具体的な年齢を示しました。
どんな方法でも、その人に合った方法がいちばん
不妊治療とはどういうものか、最新の事情はどうなっているのかを『不妊治療を考えたら読む本〈最新版〉 科学でわかる「妊娠への近道」』では具体的に紹介しています。保険適用拡大は、国民に広く治療の機会を提供した画期的なできごとでした。一方で、保険診療には限界があります。
保険診療は公的な財源をどの疾病の人にも公平に分配する必要があって、産婦人科以外の専門家が主なメンバーである複数の組織が、効果・安全性などを認めたことだけが可能になります。それは、不妊治療に専念する医師と、患者の合意だけで成立する自由診療と同じものにはなりません。
つまり、国が認めた医療とは、専門家・患者さんからみると、必ずしもいちばん効率的な医療ではありません。最も困ってしまうことは、日本の保険診療には、ほんの一部分に、ささやかな自由診療を取り入れることも許されない混合診療の禁止というルールがあるということです。本書の旧版を出版したのは2016年で、体外受精に保険が適用されるとは誰も思っていませんでした。
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