誰にでも良い魔法の治療はない。だから「知って」「選ぶ」

独身女性は「卵子凍結」しておくべき? 選択肢が増えた今こそ知っておきたい期待と注意点_img0
 

不妊治療、それもとくに体外受精や顕微授精は身体への負担も重く、たしかに、かつては小さからぬ危険を伴うものでした。過去を振り返るとOHSS(卵巣過剰刺激症候群)や多胎妊娠の増加など、身体への負担が重すぎる治療が社会問題になった時代もありました。

 

しかし、その状況はOHSSに解決策を提示することができたGnRHアゴニストの登場、凍結胚移植の進歩、単一胚移植などにより、大きく変化しています。やるべきことはまだたくさんありますが、不妊治療は常に動き続け歴史の浅い医療ながら、効果も安全性も高まっていることを知ってもらいたいと思っています。

今の日本は、科学技術について時が止まったかのように古い情報が流布し続け、人々が混乱し続けるという現象が随所で起きています。不妊治療にもその傾向があると思います。そしてその犠牲者は、患者さんです。

いちばんわかってもらいたいことは、誰にでも良い魔法の治療はないということです。不妊に悩んでいる方の大半は、保険診療の範囲内で妊娠できます。でも、それが難しい人のための選択肢もあります。治療現場の医師は国とよく話し合い、さらに多くの患者さんがより早く、より確かに妊娠できるような効率的な保険診療体制を整えていきたいと考えています。

自分に合った不妊治療を、最新の知識を持って選んでほしいということ、そして大変な不妊治療は早く卒業してほしいということが、『不妊治療を考えたら読む本〈最新版〉 科学でわかる「妊娠への近道」』に込めた私たちの願いです。

著者プロフィール
浅田義正(あさだ・よしまさ)さん

医学博士、医療法人浅田レディースクリニック理事長。1954年愛知県生まれ。名古屋大学医学部卒。同大医学部産婦人科助手などを経て米国で顕微授精の研究に携わり、1995年、名古屋大学医学部附属病院にて精巣精子を用いたICSI(卵細胞質内精子注入法)による日本初の妊娠例を報告する。2004年に愛知・勝川で開院し、2010年に浅田レディース名古屋駅前クリニック、2018年には浅田レディース品川クリニックを開院。日本生殖医学会認定生殖医療専門医。

河合蘭(かわい・らん)さん
出産ジャーナリスト。1986年より出産に関する執筆を開始し、写真家としても活動。東京医科歯科大学、聖心女子大学等の非常勤講師も務める。著書に『未妊――「産む」と決められない』(NHK出版)、『卵子老化の真実』(文春新書)など多数。2016年『出生前診断――出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新書)で科学ジャーナリスト賞受賞。

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『不妊治療を考えたら読む本〈最新版〉 科学でわかる「妊娠への近道」』
著者:浅田義正、河合蘭 講談社 1100円(税込)

2016年の刊行以来、患者・医療関係者からの支持を得てロングセラーとなっていた名著が、ここ数年で登場した最新技術や、大きく変わった保険適用範囲拡大などもカバーした「最新版」として登場! 科学的根拠のある正しい「不妊治療」を知り、妊活ビジネスに振り回されずに「自分に合った治療」を選択するための知識を習得できる一冊です。


写真/Shutterstock
構成/金澤英恵
 

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