「自分は同世代に比べて…」に陥りやすい若者たち
——先ほどおっしゃっていたように、「人材育成にZ世代は存在しない」というのが大前提だと思いますが、「環境の変化が生んだ違い」も中にはあるそうですね。10代、30代、40代の意識を比較したときに違いが見られたのが、「人からどう見られるかという視点を強く持っている点」です。
『人から羨ましがられることは、自分にとって重要である』や『自分が行動するか否かを決める際、友人にどう思われるかが重要な判断材料になる』について、10代の『あてはまる』割合が他の世代と比較して極めて高い。
——著書『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか “ゆるい職場”時代の人材育成の科学』より
この結果に対してどう思われていますか。
古屋:若者が「成長したい」理由のひとつに、「同調圧力」があると思っているんです。「横並びの成長欲求」とも言いますが、キャリアがリアルタイムで可視化されるようになり、周囲と比べて焦るようになったんです。周りが副業をして成果を上げ、オンラインメディアで取り上げられたり、インフルエンサーとしてバズっているのを見ると、「自分は同世代に比べて、なんてしょうもない仕事しているんだ」と感じてしまう。
10年ぐらい前まではそんなことはなくて、近況共有なんて同窓会に行ってようやく、1年に1回するかどうかだったわけですから。これも、SNSという情報伝達媒体の普及という「環境」の変化によるものとしか言いようがないです。
「共通目標」がなくなり「オンリーワン」の時代へ
——また、本書で「『やりたいこと』や本人の希望を尊重しそれを過剰なほどに求める現代の学校教育」とあるように、「夢・やりたいことを仕事にする」ことを求められるようになっているというのも、今の若者の特徴だそうですね。やりたいこと、好きを仕事に……みたいな価値観が降って湧いたものだとはとても思えないんですけど、確かに近年相対的に高まってはいる感じはします。
古屋:大きく言えば1989年、「ベルリンの壁」と共に冷戦という構造も崩壊し、日本全体としても倒すべき敵がいなくなり、社会全体の目標がなくなってしまった。“大きな物語”が崩れ去ってしまったんです。一つの大きな共通目標がなくなる中で、「べつに“幸せ”って“年収が高いこと”じゃないんじゃないの?」という価値観が生まれ、同時に「やりたいこと」「夢」「自分ならでは」みたいな軸が出てきた。“オンリーワン”を歌ったSMAPの「世界に一つだけの花」(2002年)もその象徴です。
さらに、2014年のYouTubeのCMキャンペーンのキャッチフレーズが「好きなことで生きていく」だったんです。教育においても、やりたいことを考えてみようとか、夢を考えてみようというキャリア教育がされるようになった。これも、社会全体の大きな潮流の一環として醸成されていった「環境」の変化なので、別に今の若者が「やりたいことしかやらない」とか、そういう話ではありません。
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