真面目に生きていれば犯罪に手を染めない?
2022年、広域強盗事件が世間を騒がせたことがありました。若者がまとまったお金がもらえるバイトと聞いて応募し、詐欺や強盗に関わっていく事例があとをたたないのだと言います。背景として若者の貧困が浮かびあがり、「貧困と犯罪」をめぐる議論が起きました。
そこで多かった反応は、「まともに生きていれば」「真面目に生きていれば」犯罪に手を染めることはない、というもの。悲惨な環境で育っても真面目に生きて犯罪に関わらなかった人はいるのだから、生い立ちや境遇は言い訳にはならない、というのです。もちろんこういった意見は正論だと思います。一方で、犯罪に手を染める人は自分とは全く違う人間と切り捨ていいのか、と思うのです。
この本では、実際に受刑者が犯罪に手を染めるに至るまでの事例が紹介されています。実際に受刑者の診察にあたるおおたわさんは、生い立ちが犯罪に結びつく様を見たと言います。
矯正施設で診察を始めてからというもの、どんな風に生まれ落ちたか、どこでどうやって育ったかが人間にとってどれだけ重要かを思い知らされている。それが犯罪へと繋がっていくことを痛いほど教えられたのだ。人生が平等だなんて、まったくの嘘だ。裕福と貧困、明晰と暗愚、美形と醜悪、この世に生を享けた時点から、人間はすべての不平等の下に置かれている。己の努力によってそれを払拭できるひとなんて、ほんの一握りに過ぎない。
『プリズン・ドクター』(新潮社)より引用
じっくりとカルテの成育歴を読んでいると、ほぼ全例に家庭環境の問題が記載されていることに気づく。両親が健在で経済的にも恵まれている家庭はほとんどないと言っていい。
『プリズン・ドクター』(新潮社)より引用
家庭環境が複雑でもまっとうに生きている人がいる、というのはその通りですが、受刑者に虐待を受けたといった複雑な事情の人が少なくないという事実を知ると、支援があれば犯罪に手を染めずにすんだのではないか、と思わずにはいられません。
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