リーたちが戦況下とは思えないほど平和な町に行き、内戦のことは知っているかと尋ねると「私たちは関わらないことにしてるの。だから気にしない」と答えるブティックの店員がいたり、ジャーナリストの親たちは、内戦を見ないふりして田舎に引っ込んで暮らしていたりするのもリアル。実際にどこかで内戦が起きたとしたら、事なかれ主義の日本人はこのパターンが多そう、とも思ってしまいました。
救いは前述の美しい映像と、俳優陣の素晴らしさ。特に、若きカメラマン志望のジェシーを演じるケイリー・スピーニーは、『スタンド・バイ・ミー』のリバー・フェニックスを観たときのような感動がありました。幼く見えるけれど25歳。不自然さが全くない演技と、横顔の美しさ。役柄は……ツッコミどころ満載ですけどね〜!(詳しくは、映画を観て確認してみてください)
リーの頼れる相棒ジャーナリスト、ジョエル役のワグネル・モウラもセクシーでよかった。前述の“赤眼鏡”は役者が降板して急遽キルスティンの夫、ジェシー・プレモンスが演じたというエピソードもすごいです。「この役にはサングラスが必要だ」とアドバイスしたそうなのですが、あの赤サングラス、本当に役の狂気を増していましたものね。
そしてもちろん、キルスティンの演技もいい。多くは語らずとも、何度もアップで映し出される彼女の表情から、様々なものが読み取れます(余談ですが、前半と後半ではリーがいきなりキャラ変していて、作品のトーンも微妙に変化。あんなにプロ意識が高かった百戦錬磨のリーが、あれくらいのことで戦意喪失するかな?と、そこは少々疑問でした)。
この映画が突き付けてくるのは、人道ってなんだろう、ということ。戦場で殺される人の最後の瞬間を、プレスパスを免罪符に、助けることもなくひたすら撮り続ける。それってガザの惨状を知りながら黙認している私たちと、きっと一緒。最後のあのシーンは、特にそれを印象づけました。
ガーランド監督はインタビューで、この作品の原動力は怒りだと答えています。
分断は、人種や宗教だけでなく、日常の様々な場面に存在する。たとえば若者と老人、既婚と独身、男性と女性、などなど。SNSやメディアでは、その分断を煽る内容が目立つけれど、その分断によって得をするのは誰なのか。プロパガンダに乗せられることなく、共存共栄を目指すことでしか、シビルウォーを避けられる未来はない。そんなふうに感じました。
Comment