更年期など体調変化、親の介護問題、子育てや夫婦関係の悩み……。40代というのは望まずして様々な変化が押し寄せてくる時期。ASK & ANSWERのLIFEコーナーでは、そういった様々な悩みの種類別に専門家に相談、解決を目指してきました。

そんな中、専門家に一つの指針を示してもらっても尚、答えを出すのが難しい悩みがあります。それは、“子供がいない”ということ。「欲しいと思っていたができなかった」、「独身で子供がいなくて孤独」といった悩みが多く寄せられる一方で、子供がいる人からも「子供がいない友達と疎遠になって寂しい」という声も聞かれるなど、ミモレ世代にとって子供について考えることは人生について考えることでもあるよう。

そこで、今年2月にエッセー『子の無い人生』(角川書店)を発売した酒井順子さんにインタビューを実施。子供がいないことへの向き合い方、子ナシと子アリの付き合い方など、タイトル通り、まさに“子の無い人生”をどう生きるべきか、様々な角度からお話を伺いました。

酒井順子(さかいじゅんこ) 1966年生まれ。東京都出身。高校生のときから雑誌でコラムの執筆を始める。立教大学卒業後、広告代理店勤務を経て執筆に専念。2004年に発表した『負け犬の遠吠え』(講談社)がベストセラーとなる。他に『裏が、幸せ。』(小学館)『下に見る人』(角川文庫)など著書多数。今年2月に発売した『子の無い人生』(角川書店)が新たに話題となっている。


「子の無い私は誰が看取るの!?」
と思ったことがきっかけ


「未婚・30代以上・子なしの女性は負け犬」と定義して世間を騒然とさせた『負け犬の遠吠え』(講談社)から12年。当時、自身もその負け犬の代表であった酒井さんだが、その後も、「何となく結婚も出産もしないまま今日まできた」と語る。そんな今、『子の無い人生』に向き合おうと思った理由は何だったのだろう?

 

「この本は雑誌『本の旅人』の連載をまとめたもので、その連載を始めたのが2014年だったんですね。ちょうどその頃、親を看取りまして。看病から葬儀、遺品の整理といった“看取り作業”を一通り終えてみて、「じゃあ子供のいない自分のときはどうなるの!?」と考えたことがきっかけです」

40代に入ってチラッとよぎった
「産んでおいたほうがいいのかな」という想い

 

『負け犬の遠吠え』を書かれたときは37歳。当時は漠然と「この先、子供を持つのかもしれないな」と考えていたという。

 

「当時は、『もしかしたら産むのかもしれないな』という感覚はどこかに抱いていたと思いますね。私は決して子供好きな人間ではないので、ものすごく積極的に“欲しい!”と思っていたわけではなかったんですけど、“もしも妊娠したら当然生むよね”という気持ちはありました。

ただそれは、今にして思えば、言葉は悪いですがノリみたいな感じだったかもしれません。というのも30代後半ともなると、子供がいない友達と話していると頻繁に子供の話題が出てきていたんですよ。その中で“欲しいよね〜”と言う人がいると、『なるほど』とか思ったりして。その手の影響をすごく受けていた部分はあったような気がします。当時の私はまだ、『結婚さえしてしまえば宿題は終わり』と思っていて、産むということまでリアルに考えられてはいなかったんじゃないでしょうかね」

そこからミモレ世代に入ってきたとき、“子供を持つ”ということに対して心境はどう変化してきたのだろうか? 多くの女性は40歳前後になると出産のタイムリミットを感じ、「本能的にザワつく」といった言葉を口にしているが……。

 

「たしかに私のまわりでも『最後のチャンスだ』というようなことを言う人はいましたね。私もその頃、『産んでおいたほうがいいのかな?』ということはチラッとよぎったことはありましたけど、本当にチラッとです。

そうこうしているうちに体力も衰えてくるし、すぐに「こんな状態で子育てなんて無理」となった。子供って、年をとるほど『かわいいな』と思えてくるんですけど、本音の本音を言うと、それは大人しくしている子に限られたりするわけで(笑)。自分の姪を預かったときですら、すぐヘトヘトになって『3時間が限界かも』なんて状態ですから、やっぱり子供は眺めているのが一番かな〜なんて……。だからすごく欲しいのにできないとか、不妊治療しても……といった人たちの感覚とは、ちょっと違うと思います」


既婚子ナシの人から寄せられた
「泣きました」という声


酒井さんがこの本を書いたもう一つのきっかけに、『負け犬の遠吠え』を発表した後、「既婚で子供がいない私は負け犬なんでしょうか?」といった声が多く寄せられたこともあったという。そのとき「子供がいて初めて結婚というものはコンプリートするんだ!」と痛感したのだそう。

 

「それも子供1人じゃダメで、2人いて初めてコンプリート、みたいな……。実際、結婚している友達は、『結婚しているのに何で子供がいないんだ?』というプレッシャーを感じることも多いようです。本人達もまた「結婚したからには欲しい」という思いもあるようで、不妊治療をしている人もいました。私も結婚していたら、そうだったのではないかと思います。

一方で、『そこまで子供が欲しかったわけじゃないけど、結婚したからには産むという体験をしてみたかった』という本能的体験欲のようなものが満たされず、モヤモヤ感を抱き続けている人もいるようなんです。これは作家の内田春菊さんの言葉なんですけど、『おかゆ機能も使ってみたいじゃない』と。炊飯器に“おかゆ”というボタンがあったら押してみたくなる、という意味だったんですけど、『なるほどな』と。私は白米が炊けたらそれでいいというタイプなので気づかなかったのですが。

そういった話を耳にしていると、つくづく日本において“結婚とは、子供をつくるためにするもの”という感覚が強力だなと感じたんです。もちろん昔のように、『3年子なきは去れ』なんてことはなくなりましたが、それでもプレッシャーは相当なもののようで、今回の本を発表した後、既婚子ナシの方から『泣きました』という声を多くいただいたんです。どこで泣かれたのかは人それぞれのようですが、やはり既婚の方のほうが“子ナシ”ということについて深く考えられているんでしょうね」

「決して子供好きではない私でも、ミモレ世代には『産んでおいたほうがいいのでは?』という思いがチラッとよぎりました」と語る酒井さん。それほど、女性にとって出産とは無関心でいられない問題なのだ。

独身のまま出産のタイムリミットに焦る人もいれば、出産適齢期を過ぎ「子を持てなかった」という思いに苛まれていたり、あるいは産んだものの子育ての大変さに余裕をなくしている人も……。ミモレ世代は“子を持つ”ということに関して、実に様々な環境に置かれているもの。これまでは酒井さんに、出産タイムリミットを前にしての想いについて主にお話を伺ってきましたが、後編では、子ナシだからこその生きがいの持ち方、そして子ナシと子アリの付き合い方など、“子の無い人生”をどう生きていくべきか、より深く探ることに。ぜひ後編もご一読ください。

後編は7月1日公開予定です。お楽しみに!

取材・文/山本奈緒子 撮影/山田薫