日本でまだアタッシェ・ドゥ・プレスという職業が一般的ではなかった時代に、ラグジュアリーブランド専門のPR会社をスタート。今ではおしゃれ好きなら誰もが知るような、数多くの先鋭ブランドをいち早く日本に紹介してきたファッション界の先駆者のひとり、熊倉正子さん。15年以上前に日本を離れてからは、仏版VOGUEやグッチグループなどでディレクターを務め、欧米でも一目置かれる存在として名を馳せてきた。そんな日本と世界のファッションを熟知する彼女がこのたび満を持して、大人の女性の装い方や生き方の極意を伝える指南本『無駄のないクローゼットの作り方―暮らしも生き方も軽やかに―』を上梓。一時帰国されている熊倉さんに、おしゃれについての少々耳の痛い話から人生を楽しく生きるための熊倉流マインドセットまで、新刊の内容に合わせてお話を伺った。

熊倉正子 1959年生まれ。1987年に日本で初めてラグジュアリーブランドの専門PR会社「KIC」を立ち上げ、「ポール・カ」、「エキプモン」、「クリスチャン・ルブタン」、「マルニ」など数多くのブランドを日本に紹介。2000年、世界的なカリスマスタイリストで当時、仏ヴォーグ編集長だったカリーヌ・ロワトフェルドに請われ、仏ヴォーグ誌のディレクターに就任する。その後、グッチグループのブランドのディレクターに転身。アレキサンダー・マックイーン社在籍時に、英国キャサリン妃のウェディングドレス契約業務を一任される。2017年アイウェアブランド「mEeyye」を設立し、世界初のファッションプログレスリーディンググラスを発表。MATCHESFASHION.COMで販売中。
 


着たい服がすぐみつかる
“無駄のないクローゼット”のつくり方

ファッション業界に長いこと身を置いてきた女性なら、そのクローゼットはさぞたくさんの服や小物で溢れかえっているのに違いない。これまで周りからそう思われることがよくあったという熊倉さん。でも実際はむしろその逆で、“1シーズンの服はラック1本分で十分”だというのが昔から変わらない装いのポリシー。まさに本のタイトルにあるように、もう何十年も一貫して“無駄のないクローゼット”作りを実践してきたのだという。「服をたくさん持っているはずなのに、なぜかいつも着るものがない、と毎日の着こなしに悩んでいる人がいますよね。そういう人はまず服が足りないと買い足す前に、一度クローゼットの棚卸しをしてみることをおすすめします。私にとっては、これがシーズンのはじめに必ず行う恒例行事。棚の中身をすべて引っ張り出したら鏡の前でサイズ感や顔映りなどをチェックして、似合わなくなったと思ったら潔く処分してしまいます。この服は高かったからとか、痩せたら着られるだろうとかいって取っておくようなことはナシ(笑)。そうしてお気に入りの服だけを残しておけば、日々のコーディネートがさっと決まるようになるし、手持ちのアイテムに何が足りないかが明確になるから無駄な買い物もしなくなります。服をたくさん持っているより、こうして少数精鋭を揃えている方が、ずっと合理的でスマートだと思いませんか? 

 

服が少ないといつも同じような恰好ばかりになってしまうんじゃないかと心配する人もいるかもしれませんが、そこは賢く着回しをすることで乗り切ることができるはず。

一例を挙げるなら、私が家族や友達から『このアイテムといえばマサコ』だと言われるくらい(笑)、どこへ行くにもよく履いているスエットパンツ。旅先でリラックスしたい時にはブルゾンとスニーカーでラフに着ているけれど、シャネルのジャケットと華奢なヒール靴を合わせれば、夜のディナー仕様にもアレンジできてしまう。クリエイティビティを働かせれば、少ない服でもがらりとイメージを替えてさまざまなシーンで活用することができるんです」


“何でもアリ”な時代だからこそ
まずは自分を知ることが大切


そんな熊倉さんのミニマムなワードローブは、時代を超えて活用している“マイ定番”と、時代の気分を取り入れた“シーズンもの”で構成されている。その詳細な内容は書籍のほうに譲るとして、おしゃれ更年期に悩む人も多いミモレ世代がいまファッションの指針にするべきものとは?

「実をいうと私はいまトレンドがないものだと思っていて。つまり何でもありのファッション過渡期だから、何を着てもいいということ。とはいえ、それだと逆に何を着たらいいのか分からないという人は、自分の好きなスタイルをしているアイコン、たとえばオードリー・ヘプバーンやマリリン・モンローetc……、昔の女優さんからイメージのヒントをつかむというのも一つの手。今ならネット上でいくらでも写真を探せるでしょう? それでイメージボードを作ってみると、ワードローブに必要なものが見えてくると思います」


新しい服を買うより、全身が見える鏡に投資すべき

「ただし、そのイメージが必ずしも自分に似合うかどうかはわからない。だから、まず必要なのは自分をよく知ること。まずは全身が写る鏡で上から下までよく見てください。自分の写真を撮ってチェックするのもいい。そうやっていい点も悪い点も客観的な視点で観察することが、自分に似合う服を見極めて、無駄のないクローゼットを作るための第一歩になるはずです」

 熊倉流・小柄な体型をすっきり見せる着こなし方法 

小柄な人にとって何より大事なのは『抜け感』。トップスは腕まくりをしてサマになるものを、パンツはくるぶしが見える短め丈のものを選び、寸詰まりな印象にならないようにするのが熊倉さんのルール。

愛用して30年(!)になるというコスチュームナショナルのジャケット。常に腕まくりをして肘から先を肌見せすることで、軽快な印象をキープ。
デニムはくるぶし丈のものをチョイスし、ヌーディーなヒール靴をプラス。足元に肌をのぞかせて、脚をぐっと長く見せるという視覚効果を狙います。



・【熊倉正子さん インタビュー】「マイ・スタイル」を築く方法 ライフスタイル編>>

 

<新刊紹介>
『無駄のないクローゼットの作り方 -暮らしも生き方も軽やかに-』

熊倉正子著 1300円(税別)

元仏「VOGUE」のカリスマ編集長、カリーヌ・ロワトフェルドにも「マサコにどうやったらなれるのか知りたいわ!」と言わしめた日本女性、熊倉正子さん。「服で損をする日本女性、服をうまく活用するフランス女性」「高くても体型に合わない服はゴミと同じ」「黒のパンツが似合う人はほとんどいない」など、欧米のファッション事情に精通する著者ならではの、独自の美意識に基づく大人の女性のおしゃれ、そして暮らし方のヒントが満載です。

撮影/横山順子 取材・文/河野真理子 構成/川端里恵(編集部)