東京・六本木の国立新美術館で開催中の「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」。この展覧会には、ルノワールやモネのほか、セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャンらの名画も数多く出品されます。「至上の印象派展」に出品されているということは、ゴッホもゴーギャンも印象派の画家なのでしょうか? 今月発売された『代表作でわかる 印象派BOX』とともに、探ってみましょう。
Q.ゴッホは「ポスト印象派」だと聞きました。
つまり印象派の後継者のことですか?
A.いいえ、印象派の後継者ではありません。
かつて、「後期印象派」という呼称もありましたが、今では「ポスト印象派」と言います。つまり、印象派「後」ということです。もちろん、印象派の影響は受けていますが、彼らは印象派ではありません。セザンヌ、ゴーギャン、ゴッホがポスト印象派の代表ですが、彼らは印象派を乗り越えてそれぞれの画風を確立し、20世紀絵画への道筋を作った画家たちです。
Q.印象派はどうして今もこんなに人気があるのでしょうか?
A.わかりやすいテーマと明るい画面のせいでしょう。
王侯貴族や教会を顧客とした昔の絵画は、神話や聖書、歴史の知識があってこそ楽しめるものでしたが、印象派の絵画はそうではありません。印象派の顧客は、資本家や中流階級からなる豊かな市民層。印象派の画家たちは、彼らを取り巻く自然や生活のひとコマを、明るい色彩で、生き生きと描き出しだのです。それは、現代の私たちでも理解できる明快さと美しさに満ちた絵なのです。
誰が見ても文句なしに美しい絵。
Q.特に日本人は印象派好きと言われますが、なぜでしょうか?
A.日本の洋画が印象派の大きな影響を受けたからかもしれません。
日本で西洋式の油絵、つまり「洋画」が本格的に描かれるようになったのは、明治時代。その最初の指導者となった黒田清輝と久米桂一郎が、フランスで師事したのが、ラファエル・コランという印象派の影響を受けた画家でした。そのため、以降、日本の洋画界では印象派風の作品が大流行しました。そうした背景があって、日本人はとりわけ印象派の作品に親しみを持っているのでしょう。
【至上の印象派展 ビュールレ・コレクション】
会期:2018年2月14日(水) ~ 5月7日(月)
開館時間:午前10時~午後6時
(毎週金・土曜日、4月28日(土)〜5月6日(日)は午後8時まで)
※入場は閉館の30分前まで休館日毎週火曜日(ただし5月1日(火)は除く)
会場:国立新美術館(東京・六本木)
福岡・名古屋に巡回予定。
冨田 章
美術史家。東京ステーションギャラリー館長。1958年、新潟県生まれ。慶應義塾大学卒業、成城大学大学院修了。財団法人そごう美術館、サントリーミュージアム[天保山]を経て、現職。専門はフランス、ベルギー、日本の近代美術史。著書に『偽装された自画像』(祥伝社、2014)、『ビアズリー怪奇幻想名品集』(東京美術、2014)、監修書に『魅惑のベルギー美術』(神戸新聞総合出版センター、2013)、訳書に『ゴッホの手紙 絵と魂の日記』(西村書店、2012)、『クリムト』(西村書店、2002)、『ゴーガン』(西村書店、1994)などがある。
『代表作でわかる 印象派BOX』
冨田 章:著 2000円(税別) 講談社
画家の生涯、代表作、人物相関……小さな1冊で印象派のすべてがわかる! 印象派と周辺画家、合計32人の作品を収録した小さな印象派事典。画家の生涯と作品150点をやさしく解説。
構成/久保恵子
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