鋭い審美眼を持ち、経験に裏打ちされたエッセイや美容特集を世に発表し続け、多くの女性を惹きつけている美容エディターの松本千登世さん。

そんな松本さんの得意技は「美のプロファイリング」。仕事やプライベートを問わず、実際に出会った人や、偶然見かける人まで、あらゆる美人をじっくり観察し、その裏や奥にある理由や秘密を紐解いています。その“観察記録”が『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。 今日も「綺麗」を、ひとつ。』(講談社)として一冊の本になりました。

松本さんが考える美人とは? 今の松本さんを培ってきた経験や関わってきた人たちとは? 松本さん自身の美や生き方に迫ります!

人と比べてしまうコンプレックスの持ち主。
でも裏を返せば……

人気美容エディターとして第一線で活躍する松本さん。職業柄、美や美人に近いところにいるにも関わらず、ともすれば美とは何かがわからなくなってしまうこともあるとのこと。でも、美人探しは美容に関わるよりもはるか昔、小学校の頃からその片鱗はあったのかも、と振り返ります。

【松本千登世さん インタビュー】松本千登世さんが考える<br />“変化に柔軟でいる”ということ 前編_img0
松本千登世 1964年生まれ。美容ジャーナリスト、エディター。航空会社の客室乗務員、広告代理店勤務を経て、婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に勤務。その後、講談社「Grazia」編集部専属エディターなどを経てフリーランスに。「GLOW」「My Age」など多くの女性誌で連載中。

「小さいから高校生までピアノを習っていたのですが、私が最初に憧れたのがピアノの先生。また、高校時代に初めて飛行機に乗ったときのフライト・アテンダントさんもすごく美人だったんです。マニキュアを塗っていないのに爪がきれいで、肌もきれいで、座席から見上げてみた美人具合が素敵! 思えば私は年上の女性に憧れてばかりでしたし、あのときの経験から、フライト・アテンダントになりたいって思ったのかもしれません」

名門女子大を卒業後に客室乗務員となり、広告代理店や出版社の編集者を経て、フリーランスの美容エディターとして活躍する松本さんは、現在52歳。端から見れば、華やかな経歴と年齢を感じさせない美しさを兼ね備える松本さんですが、意外にもコンプレックスが強いそう。

「私は鳥取の生まれで、高校時代はバスケットボールに夢中でした。関西の女子大に入学したら、周りは美人で頭のいい人だらけ! 井の中の蛙というか、打ちのめされてすぐに帰りたくなりました。しかも彼女たちと接していて、美人は性格が悪くないということにも気づくようになって……。せめて悪くあってほしかったくらい(笑)」

今まで散々いろんな人と自分を比べてきたと言う松本さん。自分にないものを持っている人に強く惹かれ、その魅力にハッとさせられてきました。

【松本千登世さん インタビュー】松本千登世さんが考える<br />“変化に柔軟でいる”ということ 前編_img1
 

「私、強いコンプレックスがあって、つい人と比較してしまう。でもそのことにも利点があると思っているんです。それは、人をうらやましいと思う気持ちは、“魅力発見機”でもあるということ。ひっくり返せば、人の魅力を見つけられるということではないでしょうか」

コンプレックスというマイナスなことをプラスに変えてしまうことも、松本さんは周囲の美人から学んだことのひとつ。「そういう美人が好きなんですよね」と笑みを浮かべる松本さん。
 

美人の共通点は、「軽やか」で「後ろめたさ」がないこと。
そのこころは?

松本さんが、美人たちから学んだことを83のストーリーとして綴ったのが『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。 今日も「綺麗」を、ひとつ。』という本。今回のインタビューでも、松本さんが惹かれる美人について聞いてみました。

「私が思う美人の共通点は、年齢に関係なく、すごく軽やかなこと」

松本さんの知人が狂言師と結婚することになり、結婚式で、新郎の師匠のスピーチでこのようなお話があったそう。

「狂言が生んだ言葉に『軽妙』というものがあります。それは軽さが際立つということですが、軽いばかりでは軽さは際立ちません。重みがあってこそ、ふわっと浮き上がるその妙。あなたはさらに芸を磨いてどんどん重くなりなさい。そしたらふっと力が抜けた軽さがかっこよく見えるはずだから――」

このスピーチを聞いた松本さんは強い感銘を受け、周囲の魅力的な女性たちはちゃんと重くなっていることに気づきました。

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「経験はもちろんのこと、仕事に対するプロ意識を持って、面倒なことがあっても頑張ってやったりしている人だからこそ、ふと力を抜いた時の美しさがあるだなって。年齢が若くても、すごく苦労して乗り越えてきた人もいます。軽さを真似するのと、軽やかになっていくのは違うんです」

年齢を超えて人生でさまざまな経験を積み、軽やかさを身にまとった美人にはもう一つ共通点があるという松本さん。それは「後ろめたさがない」ということ。

「もちろん秘密はいくつかあると思うんですけど、過去のことを突っ込まれてもちゃんと返せたり、乗り越えて笑い飛ばせるような人は、何かがあってもちゃんと解決していまの人生に至っているはず。後ろめたさがあるとそうはいきません。もしも、澱のようにたまったものがあれば、肌や表情にも出ると思うんです」

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自分の人生としっかり向き合い、時には苦しいことがあっても乗り越え、重みを加えていく。それを積み重ねた女性にふとした時の軽やかさが宿る――。それでは松本さん自身は、どんな経験を経て、いまのような透明感のある軽やかな女性へとなっていったのでしょうか? 後編ではその秘密に迫ります。

 

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<新刊紹介>
『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。 今日も「綺麗」を、ひとつ。』
講談社刊 ¥1296

人の心を突き動かす「美しさ」とは何なのでしょうか? この本はその謎に迫るべく、美容ジャーナリストである松本千登世さんが6年半にわたって続けた「美人の観察記録」です。美しさの本質をめぐる83のストーリー。

撮影/目黒智子 取材・文/吉川明子 構成/川端里恵(編集部)