前編は下田さんのキャリアや生き方の哲学を中心にお話をお伺いしました。後編ではミモレの人気連載で伝えたかったこと、“美しい暮らし”についてお聞きしていきます。
2015年1月からミモレで始まった「インテリアの小さなアイデア」。
大草編集長から連載のオファーが来た時、下田さんは「途中でネタ切れしないかしら?」と心配だったといいます。
「今まで自分の生活の中でやってきたことはたくさんあるのですが、逆に連載を続けることで気づいたこともたくさんありました。私の日々の喜びの瞬間を掘り起こしていった感じでしたね」
暮らしを切り取った一枚の写真から見えてくること
連載で欠かせなかったのはiPhone。「いいな」と思った瞬間をメモ感覚で、iPhoneで撮影し、後で写真を見返しながら、書くことを思い浮かべていったそう。例えば花の写真があった時、花そのものについて書くのではなく、色の使い方に着目したりと、一枚の写真からさまざまな広がりが見えたといいます。そして、もうひとつ大きな発見があったとか。
「4年前にマンションをリノベーションしたのですが、その前だったらこの連載はできなかったかも。写真を撮っていて気付いたのは、背景の質の重要さでした」
下田さんは『ヴァンテーヌ』編集者時代から、イギリスの豊かな暮らしに刺激を受け、自分の暮らしにアンティークの家具やハーブなどを取り入れたり、料理の器や盛り付けを変えてみたりしていました。でも、どこかで「何かがイマイチ」と感じていました。その答えが分かったのは、『モダンリビング』で建築やインテリアに深く関わるようになってからでした。
「それは空間です。リノベーション後の自宅は、壁は漆喰、床はフローリングなのですが、当時はビニールクロスの壁紙に、合板の床でした。そんな空間の中ではどんなに素敵な家具を置いても何かが違うんです。それは、アクセサリーや小物を身につけても、ベーシックで美しい服がなければ始まらないのと同じことだったんです」
心地よく、幸せだと感じられるための空間は人によって違う
下田さんがiPhoneで撮影した写真や、雑誌を飾るインテリアの写真のような空間に憧れるけれど、『うちはモノにあふれていて、美しい暮らしとはほど遠い……』とため息をついてしまう人も多いのではないでしょうか。最近では極限までモノを減らし、シンプルな暮らしを目指すミニマリストも注目を集めています。美しくて豊かな暮らしと、モノとの関係とは?
「自分が心地よく、幸せだと感じられるモノの量は人それぞれ。まずは自分にとってどれくらいの量が快適なのかを知ることが大事。『すっきりきれいに暮らしたい』という人は多いのですが、その望みを分解して紐解いていくと、要は自分のモノが多すぎてハンドリングできなくなってしまっている状態。だから、一気に減らしてみるのも一つの方法だと思います」
とはいえ、むやみやたらに捨てればいいというものでもありません。下田さんは、「モノの価値を判断することはその人にしかできない」と指摘します。
「私にとって一番大切なのは、モノの背景に作り手の姿が見えたり、そこに自分の記憶や過去の経験が重なっているかどうか。例えばこの指輪は母がずっと身につけていたもの。この右手首のティファニーのブレスレットは何を間違ったか(笑)、夫が突然クリスマスにプレゼントしてくれたものなんです。記憶やストーリーがあるものはすごく大事ですね」
自分にとって価値があるものかどうかを見極めることが大切
ミリオンセラーとなった『人生がときめく片づけの魔法』で著者の近藤麻里子さんが、自分にとってそのモノがときめくかどうかで判断して片づけることを提唱していますが、自分にとって価値があるかどうかを見極めることは、それと同じことと下田さん。
「確かに世の中には素敵なモノがたくさんあります。でも、オートクチュールの服に憧れたとしても、着ていく場所がなかったり、そもそも自分に合わなかったりするように、自分の生活にマッチするかどうかの見極めも大切です。そして自分が何かに憧れの気持ちを持った時、その中の何が好きなのかを分析してみてください。例えば、ある雑誌に載ったインテリアを見て、『ソファーのデザインが好き?』『白いトーンのコーディネートが好き?』などと考えてみて。分析して見えてきたエッセンスを自分の生活に取り入れてみればいいのではないでしょうか?」
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