コンプレックスじゃなくて、
自分のいいところに目を向けられたら、
おしゃれはもっと楽しくなる by 室井由美子
おしゃれの秘訣はもちろん、人気スタイリストたちの意外な(!?)過去まで、図々しく教えてもらうインタビュー連載も今回で3回目。雑誌『BAILA』『Marisol』ほか人気女性誌で活躍するほか、「エムエススリー」というブランドのディレクターを務め、最近ではシェフである旦那様がオープンさせたお店の“マダム”としても忙しい室井由美子さんの登場です。
大学三年生の春休み、
偶然見たアシスタントの募集告知に
気づいたら応募してました
直感で「ピン」とくるとき、そして素晴らしい人との出会いが私の人生の転機だったと思います。この世界に入ったきっかけ、それはまさに「ピン」ときたときでした。大学三年生の春休み、たまたま目にした雑誌『non•no』で、スタイリストアシスタントの募集を見つけたのです。それを見た瞬間、すぐに出版社に電話をかけていました。何のためらいもなく、そしてあまり深くも考えず、ただ手が動いていた、そんな感覚です。今思うとかなり無謀ですが(笑)。元々は大学で教職もとっていたので、ぼんやりと「教師になるのかな〜」と思っていました。この電話をきっかけで面接してくださった素晴らしい編集の方のおかげで、まさに青天の霹靂のようにファッションの世界に流れていきました。留学もして大学までいかせてくれた両親や家族は、就職をせずスタイリストになると決めたことにもちろん大反対でした。ただ母だけは唯一理解を示してくれて。「自分の思う通りにやってみたら」とそっと背中をおしてくれたのです。今でもこのときの母の言葉に感謝しています。
大学4年生からの約3年間アシスタントを経て、25歳になる年に独立。それからはアシスタント時代にもお世話になっていた『non•no』『MORE』『LEE』などで少しずつお仕事をいただいて、何とか必死にテーマをこなしていく日々でした。そんな中で「自分らしいスタイリングとは?」と毎日本当に思い悩み、苦しい時期も多かったです。でもどうしてもスタイリングが上達したくて、同じくらいに独立したカメラマンと一緒に月に何度か作品撮りをしたりと、もがいていました。そんな期間を過ごしてから半年くらいたった頃でしょうか。ちょうどそのとき一番売れっ子のモデルさんとの雑誌の企画をいただくことができたのです! 当時担当編集だった方が、いつも私が作品撮りをしていることを知ってくださっていて。なんと新人の私に白羽の矢を立ててくださったのです。今でもこの方とはお仕事をご一緒させていただいており、とても感謝しています。この企画を機に、自分のスタイリングにも少しずつ自信がついてくるようになりました。
ある日、仕事が途切れたことで
新しい一歩を踏み出す勇気が出ました
ありがたいことに何年かは順調にお仕事をいただいていたのですが、20代後半でふと仕事が途切れる時期がありまして。きっとこれが私のスランプだったと思います。最初に仕事の依頼が途切れたときは、本当にどうしようと慌てました。生活もしていかなければならないですし、何よりも自分自身が社会から必要とされなくなった気がして怖かった。でも、とにかく動かなければ! と思い、この日を境に営業に勤しむ毎日に。そんな中、ご縁があってお仕事をいただいたのが、当時人気雑誌だった『MISS』だったのです。ただ今までにないくらい忙しい日々の始まりでもありました。ミモレでもお馴染みのスタイリストの福田麻琴さん、同じくスタイリストの福田亜矢子さん、ライターの東原妙子さんなど、同世代のとてもやる気に満ちたスタッフが多く、楽しい現場でした。年齢的にも近い人たちばかりだったので、夜な夜な仕事以外のプライベートの話をしたり。彼女達とは今でも仲が良くて、忙しい方達ですがヒマをみつけては一緒にご飯に行って近況を話したりしています。今思えば、こうした方がいてくださったからこそ、20代後半の忙しい日々も楽しく乗り越えられたのだと思います。
お仕事を始めてから15年近くたった今でも、もちろん季節の変わり目などにお仕事が少なくなってドキドキすることもありますが(笑)。あるときからは「気にしていても仕方がない!」と思うように。だって毎回全力で取り組んでお仕事をしているのだから。本当に毎日の小さな積み重ねだと思うのです、何事も。そして雑誌媒体だけじゃなくて、いろいろなことに目を向けるようにしないと、スタイリングの幅も狭くなってしまうと思うように。ファッションはどんどん変わっていくものだし、スタイリストは自分らしさもありながら柔軟に変わっていかないと思っています。30歳を過ぎてからは、また多方面からのお仕事の依頼も多くなってきました。新しいことにチャレンジするのは勇気のいることですが「とりあえず、何でもやってみる」のが私の信条。スケジュールが合えば、なるべくご依頼を引き受けるようにしています。仕事はやってみないとわからないことが多いですし、どんなテーマでも取り組んでみると何かしら得ることは必ずある、と信じています。
ここ数年で新たに始めたお仕事は、ショップチャンネルの「ムロイ商店」という番組。それがきっかけで、私のオリジナルブランド「エムエススリー」も作らせて頂きました。「エムエススリー」とは「ムロイ商店」の頭文字から来ているもの。わりとネーミングはシンプルな方が好きで(笑)。ただ皆様に覚えて頂いているのはインパクトのある「ムロイ商店」という名のほうですが。そして、定期的に行っている各ブランドさんでのスタイリングイベント。ここでは直接お客様とお話ができるので、いろいろと発見することが多いのです。たとえば、誌面でのスタイリングで流行のワイドパンツを提案してみても、実際の店頭でははかない方ははかないのです。特に大人になるほど、流行というだけでは取り入れなくなっている。お客様とお話をしながら直接そういう実感を持てたことは、その後のスタイリングにとても生かされました。普段のモデルさんに着せている雑誌の仕事ではこういう機会もなかなかないですから。そしてイベントにはリピートで来てくださる方もいらして。こうしてスタイリストという仕事を通して知り合い、またお声を掛けてもらえることは、とても励みになるのです。お客様の大切な時間を共有させていただき、スタイリングに満足して笑顔でお帰りいただけると、心から嬉しい。イベントならではの醍醐味です。実はこういったところでの出会いも、スタイリストの仕事の大事な糧になっています。コーディネートを考えるときに参考にしているのは、日常で出会う素敵な方のファッション。特に写真を撮ったりメモをするわけではないのですが、コーディネートを組んでいるとふっと思い出すのです。視覚のインパクトはとても強いですから、本当にいいなと思ったものは、ちゃんと記憶している。
ありのままのほうが、
ファッションも
仕事も人生もうまくいく
服を着ることは、ひとつの自己表現。毎日のことですし、自分が着ていて気持ちがよく、そして何より自分らしくいられるものが一番です。そしてあまり無理をしすぎると結局そのスタイルは続かなくなる。私の場合、背が低いので20代の頃は高いヒールしか履かず、それこそ「フラットシューズなんてありえない!!」とさえ思っていました。でも、ちょうど30歳手前くらいで本当に忙しくて、とにかくがむしゃらに働いていた時期があったのです。そのときは、ヒールを履いて、髪をきれいに巻いてと取り繕う余裕がまったくなくなり。もう「ありのままの自分でいいやっ」と思ったのです。それくらいの時期からか、自分のコンプレックスをどう隠すかではなく、自分のいいところにもっと目を向けてそれを生かすスタイリングをすればいい! と考えるようになってきたのです。そのことは、スタイリングイベントなどでお目にかかる方々はもちろんのこと、雑誌などをご覧くださっている皆様にもお伝えしたいこと。自然にありのままのほうが楽ですし、ファッションだって、はたまた大きくいえば人生や仕事だって、いいほうに流れていく気がする、それが私自身の実感です。
CRECDIT:
トップス/アクネステュディオ
パンツ/ザシークレットクロゼット
ピアス/ティファニー
リング(右手)/スピネッリキルコリン
リング(左手)/ブシュロン
バングル/エルメス
サンダル/プラダ
次週は郡山雅代さんが登場! 公開は7月26日(水)です。お楽しみに!
Comment