ここ数年、うちの年賀状の印刷をお願いしているお店から「早割のお知らせハガキ」が届いていて、うぉー、ついにー。そんな年の瀬の背中が見え始めていたとは……と驚愕しましたです。今年こそ、早めに発注しようっと。

夜が過ごしやすくなった今日このごろに、おすすめの文庫本をご紹介します。

防げなかった「ストーカー殺人」
複雑に絡み合う背景とは


まずは、柚月裕子さんの『朽ちないサクラ』(徳間文庫)。

単行本刊行は2015年と比較的新しい作品。女性が主人公の警察モノです。

2016年の”バタやんベストブック”にも選んだ『慈雨』以降、私の心の「書店でみつけたら買う作家さんリスト」入りしている柚月裕子さん。

2017年のベストブックに挙げた『孤狼の血』のようなヤクザモノのハードボイルドな作品も魅力がありますが、警察内部を描きながら人情味を感じるハートフルな作品にもおすすめです。

『朽ちないサクラ』は、県警広報で働く女性事務員の森口泉が主人公で、柚木さんの中では少しやわらかいほうの作品と言えます。

県警の生活安全課が慰安旅行に出かけている最中に、ストーカー殺人が発生。被害者は生前、警察にストーカーの脅威を訴えていたにも関わらず、県警は対応を先延ばし、しかも事件発生時はみんなで旅行に出かけていたということを新聞にすっぱ抜かれてしまいます。

内部リークを疑われる主人公。新聞記者の友人の不審死。

冒頭から身近な(興味を持ちやすい)テーマでぐっと引き込み、カルト教団、公安警察の裏側など社会派ミステリーに展開。硬軟交えた投球に読む手が止まりませぬ。

ドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』で生活保護のケースワーカーに興味を持たれた方(私もこのドラマ、楽しみにしていました)には、『パレートの誤算』をおすすめします。

ベテランケースワーカーが火災現場から遺体で発見されます。殺意をもたれる裏の顔があったのか。新人職員が謎に迫ります。生活保護の不正受給や暴力団の関与が見え隠れする貧困ビジネスの闇を描きます。



”自慢のお姉ちゃん”には
ひとに言えない秘密があった……



つづいては、誉田哲也さんの『月光』(中公文庫)。

美人で優しくて、ピアノが上手で……品行方正を絵にかいたような姉がバイクに跳ねられて死亡。悲運な交通事故ではなく、故意の殺人を疑った妹が真相に迫るが……。

 『ストロベリーナイト』などの姫川玲子シリーズで知られる誉田哲也さん。ハードボイルドな警察小説や裏社会モノの作品も多い作家さんですが、『武士道シックスティーン』『ガール・ミーツ・ガール』『春を嫌いになった理由』などの青春小説も魅力的で、なんでこんなに思春期の女の子の気持ちがわかるんだろう~と。誉田哲也なんていかつい名前だけど、実は17歳の女の子が書いているのではと思ったり(笑)。

『月光』はその中間。思春期女子モノでありながら、ミステリー作品です。

誉田哲也さんの上に挙げた作品に比べると“大傑作”とは呼び難いですが(紹介しておいてすみません)、新幹線に乗っている間にアイスも食べずに一気に読めちゃうような、そんな作品です。旅のお供にぜひどうぞ♡

映画化&ドラマ化も決定の
哀しい宿命を負った主人公のスパイアクション


つづいては、吉田修一さんの『森は知っている』(幻冬舎文庫)。

母のおすすめで実家から借りて帰りました。

石垣島のさらに南の島でおばあさんと暮らす17歳の鷹野一彦は、実は特殊な訓練を受けた産業スパイ。

企業の機密情報を高値で売りさばく産業スパイ組織AN通信が活躍する『太陽は動かない』の序章、鷹野一彦の若い頃を描いています。(と書くと、『森は~』で一彦が死なないことのネタバレになってしまいますが・汗)『森は知っている』『太陽は動かない』は、藤原竜也主演で映画&ドラマ化が発表になったばかり! ぜひ続けてお読みください。

事情があって孤児となり、名前を変え、特殊な訓練を受けながら育てられた少年たち。恐ろしいことに胸に爆弾が埋め込まれており、組織を裏切ること=死を意味します。

暗くツライ話ばかりではなく、若さゆえの切ない恋心と性欲、男友達・兄弟とのバカ騒ぎなどのシーンが南の島の情景とあいまって明るく描かれるところもあって救われます。

吉田修一さんの傑作『怒り』も、沖縄を舞台にした作品ですね。
暴力的だけど、美しい情景が印象に残る。そんな耽美さが吉田さんの作品にはあります。
スパイものと聞くと洋画が圧倒的ですが、吉田さんの描く力強いハードなアクションシーンが映像でどう再現されるのか楽しみです!

まだまだご紹介したい作品がたくさんあるのですが、長くなってしまったので続きは次回に~。今読んでいる本はInstagramアカウント@batayomuでもアップしていますので、こちらでも。

ではではまた。