3 よぼう ――多様な病気

3つ目はMulticomplexity。これは一般に、多様な疾患を抱えた状態を指しています。歳を重ねていく中で、生活習慣病、がん、感染症、心臓の病気など、さまざまな病気のリスクが増えていきます。これらは、運悪く発症してしまうものがある一方で、工夫をすれば未然に防ぐことのできる病気もたくさんあります。このような多様な病気を防ぐためにできること、また多様な病気との付き合い方について考えていくのが、このMulticomplexityの軸です。ここでは、「よぼう」の視点がとても大切になります。
 

4 くすり ――ポリファーマシー

 

4つ目はMedication。Medicationはズバリ「くすり」のことです。高齢になると、多くの方がたくさんの薬を飲むようになります。1日に服用する薬の数が非常に多い状態を「ポリファーマシー」と呼びます。薬やそれが治療する病気の性格上、どうしても長い間飲まなければならない薬、飲んだ方が良い薬があることに間違いはありません。一方で、やめられる薬、やめた方がいい薬もあるにもかかわらず、それに医師も患者さん本人も気がつかずに続けられてしまっているケースが多くあるのもまた事実です。こうしてポリファーマシーが蔓延してしまうのです。このMedicationの軸では、そういった「くすり」の問題を明らかにし、どのような工夫ができるかを考えます。


5 いきがい ――人生で一番大切なこと

 

最後に忘れてはならないのがMatters Most to Meです。これは、「あなたの人生にとって何が最も大切か」という視点です。人はそれぞれ自分の健康上のゴールや好みがあるはずです。人によっては、寝たきりになってでもとにかく長生きをすることが大切と考える一方で、人に依存しない生き方こそが大切だと考える人もいます。あるいは、登山が好きな人にとっては、山登りのない人生など考えられないかもしれません。このように、個々人の「いきがい」、最も大切なことは何かに目を向けることも、上手に歳を重ねる上で大切なポイントになります。

上手に歳を重ねるための方法論は、このように5つの視点で整理することができます。5つのMは、「からだ」「こころ」「よぼう」「くすり」「いきがい」とまとめることもできるかもしれません。

 


「5つのM」は、アメリカの高齢者診療の常識


この5つのMは、現在では米国中の老年医学専門医にその考え方が浸透し、高齢者を診療する基本指針とされています。私自身も日々5つのMに沿って診療を行っています。日本ではまだ浸透するには至っていませんが、この5つのMはただ高齢者の診療に活用できるだけではなく、より若い世代が上手に歳を重ねる上での指針にもなるのではないかと考えています。

それではここから、この5つのMに沿って、老化で何が起こるのか、そしてそれを防ぐために、最高の老後を過ごすために何ができるのかを考えていきたいと思います。
 

参考文献
1    2 健康・福祉|平成30年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府. (accessed April 27, 2021).
2    Tinetti M, Huang A, Molnar F. The Geriatrics 5M’s: A New Way of Communicating What We Do. J. Am. Geriatr. Soc. 2017; 65: 2115.

写真/shutterstock

前回記事「アレルギーや偏頭痛が改善?加齢のメリットはこんなにある」はこちら>>

 
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