練習はしない、努力が嫌い!


——歌手生活55周年を迎えられましたが、いまだに緊張されるそうですね。ラジオショーでも、ステージ前は「テンションではなく脈が上がる」とおっしゃっていたのが印象的でした。

前川清さん(以下、前川):歌っていてもどこか自信がない。やっぱり好きで始めた歌じゃないんです。好きでこの世界に入って、本当に人の前で歌いたかったら、アガらないんですよ。それともう一つは、努力をして、発声をして自信をつけてたら、アガらないんです。でも僕は、発声はしない、努力はしない。それだと人間って、アガるんですよ(笑)。

——むしろ、芸歴を重ねられてからの方が緊張するともおっしゃっていましたね。

前川:はたちの時には、失敗しても次頑張ればいいや、って思えたんです。今は、次がないんですよ(笑)。年を取れば取るほど、間違った時に、駄目だ、もう取り返しつかんな、という焦りというのか、緊張する度合いが増えてくる自分はいますね。

 

前川:でもそれは生の時だけですよ。録画の時はうまく歌える。なんでかって、「すいませんもう1回撮ってください」って言えば、撮ってもらえる。そう思うと、うまく歌えるんです。生の時は、これ一発で終わりだ、何百という人が見てるんだって思ってしまう。そんなに歌も練習して来てないのに、それより一層よく聞かせようとする自分がいるから、アガるんですよね。そこら辺が非常に良くないなって自分で反省はありますね。それでもやっぱり、努力するのは嫌いなんです(笑)。

 

——努力は嫌いとおっしゃいますが、お話を聞いていると、努力を努力と思っていないのではないかと思います。結果として55年間第一線に立って、歌で人を感動させていらっしゃるわけですから。

前川:いやあ、冷静に考えると、感動させてるって思わないんです。僕は歌うといっても、お客さんが1000人2000人です。1万人の前で歌ったことがない。でも、例えば福山雅治さんとか、桑田佳祐さんとか、何万人という人の前で歌うんですよ。

——ご自分のことを、歌が上手いって思わないとおっしゃっていたじゃないですか。紅白歌合戦にもたくさん出場されて、大御所と言われるようになって、皆さんから認められているのに、それでも歌が上手いとは思わないものですか。

前川:歌がうまいと思わないです。自分の実力でここまで来たと思っていませんから。それに、萩本欽一さんとか、ザ・ドリフターズのバラエティーに出たりして、歌だけでここまで来たわけじゃないんですよ。