「ごちそうさまでした!」自分の食べている料理は必ず誰かが作っているのだ
そのとき涼ームズが何を食べたかったかといえば、とにかく発酵しているものが食べたくて「今すぐ俺に発酵したものをくれー! いい感じの菌がいい感じに繁殖している食べ物を俺にくれー!」と街行く人に懇願したくなるような発酵食品摂取欲が湧いていて、それから発酵というものをより意識するようになり、塩で味付けするなら塩麹を使ってみたり、醤油を使うなら醤油麹にしてみたりして、発酵欲をより研ぎ澄ませ、さらに、スーパーの特売で買った豚肉を100グラムずつ分けて冷凍するときに塩麹をかけたら、お肉は柔らかくなるし下味がついて、どんな料理に使ってもおいしいということを発見し、最近は土鍋にレタスを敷いて、冷蔵庫にある適当な野菜があったらそれも置いて、塩麹に漬けた豚肉をその上にのせてから追い塩麹して、たっぷりめのお酒をかけたあと、最後に少しだけ白だしを垂らしてから蓋をして蒸した「おだし香るレタ豚塩麹蒸し」と名付けたお涼理をエブリナイトするフェーズに入った。
そして、発酵食品を渇望するペルーから帰ってきたお涼が作った第一食は、とにかく発酵している納豆と、夜明け後の茶碗蒸しと、とろろエブリナイトと、焼き鯖と、きんぴらごぼうと、土井善晴さんのレシピのべーじゃがというじゃがいもとベーコンとにんにくをおだしとお醤油で炊いたんと、無印良品の毎日混ぜなくてもいいぬか床で漬けた大根とにんじんのお漬物と、豚汁と鍋炊き十六穀ごはんという、今までらめ活によって解決してきたお涼理オールスターを小さなちゃ舞台の余白がなくなり断崖絶壁でひしめき合うようにみっちみちに並べて食べた。
たぶん、このあきらメニューの数々が現時点でのお涼理最上級であり、ごちそう総決算。そもそも、ごはんとお味噌汁とお漬物があれば私にとってごちそうだから、そんなの今となってはおだし沸かして味噌溶いて、気分次第で冷蔵庫にある野菜や豆腐を入れて、冷凍ごはんをレンジでチンして、冷蔵庫から切っておいたお漬物をお皿に並べて、納豆があったら混ぜて、余力があったら茶碗蒸しとか作れば、もう充分すぎるほどのお涼理たちがそこに登場してちゃ舞台の上でおどり出す。
自分で作った料理はおいしいし、料理をしている間って料理以外のことを考えられなくて、まるで瞑想しているときみたいに雑念がどこかへ消えてゆき、気持ちが一旦リセットされる感じがあって私は気持ちいい。
ただ、私はひとりで暮らしていて、料理する気分じゃなかったらしなくていい気楽さがあるけれど、誰かの為に毎日毎食料理をしている方がこの世界には必ずいて、その行いのすごさには計り知れへんものがある。そんなのどれだけあきらめてもあきらめ足りないよ。偉業すぎる。だから、できるだけ楽してほしいし、手を抜けるだけ抜いてほしい。やらなくていいことはやらずにどんどんあきらめて、できる限りの人や力や技術やサービスに頼ってほしい。
そして、ひとり暮らしでもそうじゃなくても、料理したくない方はせんでいいと思う。私が他の家事が苦手なように、人それぞれ得意不得意があるもの。誰かにお願いできるならお願いして、外食でもテイクアウトでもスーパーのお惣菜でも宅配でも、自分の生活水準でできる限りのいろんな食生活をすればいいと思う。
でも、料理ってめんどくさいことばっかりじゃないっていうのは、この極上の怠惰を有する私でもできているからそうなんやと思う。だから、やらなくていいことはやらないことを貫いて、自分の性格に合ったあきらめられることを見つけては、命懸けであきらめることを行使する。そんなスタンスで、もしお料理ができる肉体と精神を有している方は、余力があるときでいいから一度でも何度でもお料理してみてもいいんじゃないかな? と涼ームズは思います。ちゃんとしようと思わずに、適当全開で、日々従っているルールから解放されて、自由になって、自分の食べている料理は必ず誰かが作っているということを思い出せて、そして、それが実はものすごいことだということを実感できて、食事のあとに毎回「ごちそうさまでした」と腹の底から言いたくなるような気持ちが湧いてくる。そんな、感謝とご自愛をかましてみてもいいんじゃないかと思いながら、食探偵涼ームズは今日もあきらめられることはないかとキッチンに立ち、あきらメニューについての謎を解くのであった。
以上、ここまで涼ームズの華麗なるあきらめっぷりによる珠玉のお涼理事件解決譚を綴る私、ジェームズ・ワトソンならぬ坂口涼太郎ですが、今日はちゃ舞台の上でドミノ・ピザがおどっております。
そんな日もあって然るべきなのだ!
世界へ轟け。「ごちそうさまでした!」
<INFORMATION>
坂口涼太郎さん出演
ドラマ「Sunny」
(Apple TV+で配信中)
日本の京都に住む、あるアメリカ人女性の人生が一変。彼女の夫と息子が不可解な飛行機事故で消息不明となってしまう。そして、夫の電子機器会社が製造した新型の家庭用ロボット・サニーと暮らすことになる。
文・スタイリング/坂口涼太郎
撮影/田上浩一
ヘア&メイク/齊藤琴絵
協力/ヒオカ
構成/坂口彩
前回記事「「私だけのごはんやねんからええやん」家事嫌いな私が解決してきた数々の“料理めんどいなあ”事件簿」>>
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