原爆裁判に尊属殺人。70年安保と少年法。佳境に入ってなお難しいテーマに挑み続ける『虎に翼』。開始当初はまだ女学生だった寅子(伊藤沙莉)も50代半ばとなりました。
ふれたいテーマはいろいろありますが、今回はあえて主題から少しそれて、ここ数週の『虎に翼』に見る中年期の歩き方について語ってみたいと思います。
中年とは、次の世代から復讐される立場に回ること
「君もいつかは古くなる」
それは、恩師・穂高(小林薫)から寅子への最後の「贈る言葉」でした。理想に向け邁進していたはずが、寅子という新しい時代の人間と出会い、意見が食い違い、最後は「私は古い人間だ」と去っていった穂高。穂高のあの言葉は忠告であると同時に、ある種の呪いとして寅子の心に刻まれました。
時は流れ、義理の母・百合(余貴美子)の認知症や自身の更年期障害など、中年期の洗礼を浴びてきた寅子ですが、そういった表面的な症状だけでなく、ちょっとした立ち位置や振る舞いなんかを見ても、寅子が新しい世代にとって「モヤッとさせられる中年」となっていることがわかります。
たとえば、第24週から登場した東京家庭裁判所の調査官・音羽綾子(円井わん)。「カミナリ族」として補導された少年に「ばばあ」と暴言を吐きつけられた綾子に代わり、寅子は「こら。音羽さんに失礼でしょ。ばばあはこっち」と笑い飛ばします。寅子からすれば、若い後輩の盾となり、その場を和ませたつもりでしょう。でもそんな寅子を見ながら、「若い頃、こういう先輩っていたよなあ……」と妙に背中がむず痒くなりました。
なぜなら、そうやって同性の先輩が自虐に走り、ばばあ役を買って出ることで、いずれ自らも年をとったらその役目を負わなければいけないような気分にさせられるから。相手がいくつであろうが、人に対して「ばばあ」などと言っていいわけがありません。寅子にとっては自らを落として場の潤滑油になることが、ひとつのコミュニケーション術なのでしょう。でもそれが、若い人たちにとっては「時代遅れ」に見える。
前を走る先輩にはもっと毅然としていてほしい。寅子も昔はそう思っていたかもしれません。でも、中年になるとプライドも薄れ、「おばちゃん」のポジションにおさまってしまったほうが、いろいろ楽なのも事実。僕も40代を迎え、堂々たる「おっさん」です。若い子の前で「おっさん」ムーブをかましていないか。思い当たるところが多すぎて、顔が赤くなりました。
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