行動力がある限り、人生は変えられる
そうして、晴れて再婚された美保さん。
とはいえすぐに同棲は開始せず、娘さんの様子を見ながら余裕を持って家族としての環境を築いていったそう。
「よく覚えているのは、入籍の当日、私の家で三人でお鍋を食べたこと。でも二人暮らしの小さな家なのでイスが二つしかありません。
すると娘が、おもちゃの小さなイスを持ってきて自分はそこに座り、お鍋を囲んだ食卓で『家族っていいね。すっごい楽しいね!』と、本当に嬉しそうな顔で言って……」
当時を思い出したのか、美保さんの目が潤みます。
「私はシングルマザーでも寂しい思いはさせないよう、愛情はたっぷり注いだし、しっかり子育てをしてきたと思っていますが……。
それでも、娘は小さいながらに母娘二人という、他の家庭とはちがう環境に適応して、私と一緒に頑張ってくれてたんだと気づいて胸が痛くなりました。そのとき初めて、離婚で父親を奪ったことを娘に申し訳なかったとも思いました」
娘さんが新しい父親の存在を歓迎したこと、新しい家族関係が良好なことは本当に喜ばしいと思いますし、罪悪感がよぎる美保さんの気持ちもわかります。
しかしながら「父親を奪う」よりも、父親に母親が苦しめられる姿や両親の不仲を見続けるほうが酷い場合もあるので、美保さんが過去のご自身を責める必要はないと思います。
実際、娘さんと夫、美保さんにトラブルはなく、3人は自然と家族関係を築くことに成功したそう。娘さんはすくすくと問題なく成長し、また夫婦は新しいお子さんにも恵まれました。
「気をつけていたのは、少しでも違和感があればしっかり話し合って解決すること。娘の顔色には特に敏感になっていましたが、幸い適応力もコミュニケーション能力も高い子だったので問題はなく、これは単純に幸運で、本当にありがたいです。
また、一度は不幸な結婚で精神まで病んだ私が立ち直ることができたのは、環境を変えたことが大きいと思います。都会に出てから、再婚や晩婚で幸せな家庭を築いている友だちに刺激を受け、シングルマザーという立場に引け目を持たなくなったので」
美保さんのご友人は、年齢やステータスに関わらず、人生を前向きに楽しんでいる女性が多いそう。その共通点は行動力があることで、行動力がある限り、人はどんな環境でも人生を変えられると学んだと言います。
「今はイヤイヤ期の男児を育てていて、シングルで娘を育てていた頃より大変と思うこともあるし、もちろん激しい夫婦喧嘩をしたり、『めでたしめでたし』なんかじゃ決してありませんが……。
でも、大人になってからの幸せは自分次第ですよね。離婚後のドン底で、がむしゃらにもがいて何とか自活できた経験は私の自信になりました。また困難に直面しても、自分を信じてしっかり乗り越えていきたいです」
たしかに美保さんはマイナスな経験をバネにして、むしろ人生を好転させたと言えます。決して簡単ではないことですが、彼女の言う通り「自分を信じる」がキーワードなのでしょう。
美保さんのお話でとにかく印象的だったのは、娘さんにも夫にもとにかく真剣に向き合い、自分の気持ちを決して誤魔化さず、自分軸がしっかりしていること。こんな女性は母親としてもパートナーとしても、とても心強い存在だろうなと感じます。
長らく貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
写真/Shutterstock
取材・文・構成/山本理沙
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