ファッションプレスを経て、ご自身のKOというブランドを発信、インスタでも確固たるファンが多い服飾ディレクターの岡本敬子さん。ブランドでのものづくり、PR、nanadecorや千駄ヶ谷の「Pilli」というお店のディレクションも。ファッションを心底愛し、楽しんでいるからこそ際立つ、独自のスタイリング。今回はオシャレの醍醐味、自分らしいスタイル作りから人生論まで、根ほり葉ほり聞いてみました。

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岡本敬子/アタッシェ・ド・プレス、「KO」ディレクター。文化服装学院スタイリスト科卒業後、スタイリストオフィスに入社。その後、大手アパレル会社のPR部門にて国内外のブランドのPRを担当。独立し、アタッシュ・ド・プレスとして複数のブランドを担当しながら、2010年に自身のブランド「KO」を立ち上げている。現在はnanadecorにて「KO」ラインを、千駄ヶ谷のショップ「Pili」のディレクションも手がける。
 

「自分のものは自分で選びなさい」と育てられて

神田 最近、読者の皆さんから多く聞くのが「クローゼットがパンパンになっているのに、明日着ていく服がない」「着ていきたいものがない」という服を買っているのに出口が見えない、という悩みです。きっと真面目におしゃれをしていくと、買い物やコーデイネイトに行き詰まり「何を着たらいいの?」というおしゃれに向き合うことに疲れてしまう。もともとファッションが好きな人ほど、真面目に取り組んで悩んでしまうことがあるようです。今回は、どのようにして今のご自身のスタイルに行き着いたか、そのヒストリーをうかがいたいです。

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本日のストールはPilliにあるCOOVAのもの。大ぶりなタッセルがついてボリューム感がかわいい。表がシルク、裏地がオーガニックコットンというガウンはnanadecorのKOライン。コズミックワンダーのオーガニックコットンパンツを合わせて。

岡本 私のファッションのベースには、母親が私の服を全部縫っていたということが大きいと思っています。祖母は着物が縫える人で、母も洋裁が得意でした。だから小さい頃から既製のお洋服を買ったことがなく、洋服からバッグ、お弁当の巾着まで、すべてが手作りだったんです。母は「ドレメ式」と言われている「ドレス メーキング ブック」シリーズを愛していて、「この本から好きなものを選んで」とよく聞かれていました。そこからさらにアレンジを効かせてオリジナルを作ってくれていたんです。幼稚園ぐらいからは一緒に池袋のキンカ堂に行き、生地はもちろん、ボタンからファスナーまで、すべてのパーツを私に選ばせてくれました。とにかくその頃から「自分のものは自分で選びなさい」という教育方針で、何事も選択をさせられていました。父親の着ていたツイードの服をリメイクして私のお弁当袋にしたり、絣の着物から作ったワンピースを親子お揃いで着たり、とにかくオリジナルのものしか身の回りになかったわけです。

神田 まさに服育! きっと失敗したこともあったでしょうから、トライアンドエラーの経験もしっかり自分の中に蓄積されていて。

岡本 正直、小さい頃はボタン、ファスナーまで選ばなきゃいけないのがめんどくさいと思っていたんですけどね(笑)。

ファッションは失敗しないと分からない!?

神田 コラボレーションの現場を拝見していて思うのですが(編集部注:神田さんのブランドnanadecorの中に、岡本さんがディレクションするKOというラインがある)決めるのが早いですよね。好みがはっきりしている。きっと身の回りのモノやコトを決めることことも早いだろうな、と想像していました。

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岡本 大人になってからも、いろんな服を着たし、もう家一軒分くらいは買ったのではないかというくらいファッションには投資をしてきました(笑)。いろいろなブランドの服も着てきました。私はどちらかというと、試すことに関してはあまりリスクを感じないタイプ。「失敗したらしょうがない!」と腹をくくるのが早い。人生と一緒で、自分が決断して買ったのだから、失敗したなと思っても、リセットしてすぐに前向きになって、毎日を楽しみたいな、といま、皆さんの買い物を拝見していると、失敗してしまうことを恐れている気がします。悩むことは決して悪いことではありませんが、悩み過ぎると分からなくなってしまいます。似合うか似合わないかよりは自分が好きか嫌いかということ、好きという判断をきちんと自分で出来ることが大切。ファッションは、自分で失敗しないと糧にならない。実際に着て、街に出てみないと気づかないことはたくさんあります。

神田 洋服を買うときは、自分に似合うかなとか、挑戦したいなとか、どんな基準で選んでいますか?

岡本 いまは好きなものがかなり絞られてきましたけれど、昔はよく試着をしていました。雑誌や映画なんかを見て、「これいいな」と思うとすぐに挑戦する。似合う、似合わないがあるから躊躇する方もいると思うのですが、「好きなもの=着たい服」だったから仕方がない(笑)。失敗したときは、そこで諦めずに、例えば丈を変えてみるとか、ボタンを変えてみる、と工夫して納得いくまでカスタマイズしてみる。服や生地が好きなので、基本的には捨てたくないんです。今は着なくなっているアイテムだとしても、しばらく寝かせたらまた復活させる。そして、直したり、カスタマイズしながら、ずっと着続けています。

神田 衝動買いの失敗も、そのままにせずに、真剣に挑戦したり、常に研究しているんですね。

堂々と「好きなものを着る」ことが大切

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長崎のアクセサリー作家による「…et-R」のネックレスとイヤリング。色がシックなので、フラワーモチーフも大人っぽい印象。

岡本 だから、夜に新しい組み合わせが思いついて突然コーディネイトしちゃったりすることもあるんですよ。ワンピースをスカートとして着てみたり、ヒックリ返して着てみたり。何か新しい発見があるんじゃないか? ととりあえずやってみる。皆さんにも、着こなし一辺倒じゃなく、自分らしいコーディネイトの楽しさを伝えていければな、と思っています。日本には四季があるので、季節感を重視し、服を決めるところがある。そのうえ、さらにトレンドを追いかけると……だから、みんな同じようなスタイリングになってしまうんですね。たとえば、冬だからといって薄い素材のものを着てはいけないということはなく、服は自分の体感温度で選んでほしい。そして、シーズンを問わず、堂々と「好きなものを着る!」という思いが大切です。「この組み合わせでいいのだろうか?」と自分は思っていても、それに「おかしい!」と思う人なんて案外いないものです。そもそもファッションにおかしい、という感覚は私はないと思っていましすし、それこそが「個性」になるとも思っています。ひとと違うスタイリングで「私、浮いてる?」と感じたなら、それこそが「個性」だと自信をもってほしいです。

神田 敬子さんのコーディネイトを見ると、それぞれにデザイン性があり、パンチがあるものばかり。それがなぜかまとまって見えるからすごい。

岡本 身につけているものの共通点は「自分が好きなもの」ということ。春夏はよく色を身に着けていて、色と色の掛け合わせを楽しんでいます。というのも、夏の光は、強い色同士のコーディネイトがすごく映えるから。いつも光の加減や体感温度で服を選んでいるんです笑。旬のものばかり買っていた時もあります。でもトレンドを追いかけ続けていると、次のシーズンには次のトレンドが必要になり、スタイリングをガラリと変えないといけない。「自分のスタイルがない」という悩みに陥っている方は、まずは自分の軸となる「好き」を見つけることが大切です。手始めにワードローブの基本を、好きなベーシックカラーで揃えることでもいいかもしれません。そして、さし色となるものもそのベーシックカラーに合うものを選んでいくようにしていく。

神田 ファッションの筋力を育てるには、黒、グレー、ベージュなど決まったベーシックカラーを決めて、そこにさし色で好きな色を足していく。それが小物、靴やバッグでもいいですね。

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シルバーとターコイズのリングやバングルは、日本のアーティストのものや旅先のタイで買い集めたもの。大ぶりを重ねることで、まとまるから不思議。

岡本 私はアクセサリーやバッグなどの小物が好き。実は、服はわりとベーシックでシンプルなアイテムが多く、小物でいろいろアクセントをつけていること場合がほとんど。小物はフォークロアっぽいものが好きなので、なんとなく無国籍な印象のものが集まってきます(笑)。

神田 アクセサリーは大ぶりのものが多いですね。きっと敬子さんは自分の好きなものを買っていて、自分の好きなもの同士の中だから、何をどう合わせても、自由にフィットするんじゃないかな。

岡本 買い物は恋愛と一緒。「これだーっ」と思ったら後先考えずに買っちゃう。その直後に「失敗だった」と思っていてもそこには確かに愛があったのだから、せっかく手に入れたから、それをなんとかして着ようという努力をしようと(笑)。

 
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