頭がいい女性ゆえの
未練がましさと可愛さを


相子と両極端に描かれるのが、麻生祐未さんが演じられる正妻の寧子。物語の中で、お二人の立ち位置や様子、仕草や物事に対する姿勢などを比べながら観るのも面白そうです。相子は寧子の存在やキャラクターをどう思っていたのでしょう。

「連続ドラマW 華麗なる一族」より

内田:相子は寧子のことを羨ましく思っていたのではないかと想像しました。寧子はただ女性としてそこに存在しているだけで愛されている女性です。何かを頑張らなくても、生まれ育った家柄や本人のキャラクターなど、それだけで愛されているという事実に対して嫉妬があったと思います。相子からすれば、彼女は何もしていないのに愛されている、私はこれだけ身を粉にしてもまだ危なくて、最終的には切られてしまうのではないか……、という気持ちを抱いていたはずですから。悔しくもあり、嫉妬も当然あったと思います。

 

相子は複雑な立場を貫きながら、寧子をはじめとする万俵家と長く生活を共にしていきます。果たして、どんなゴールを夢描いていたのでしょうか。内田さんの見解を伺いました。

内田:相子はとても頭のいい女性です。でも、大介との関係に関して言うなら、このままずっと自分が大介に必要とされていくんだと、心のどこかで思っていたのではと思うんです。だから、次の一手を考えてはいなかったのかなと。それが相子の可愛いところで、未練がましくていいなと思いました。割り切ったドライなタイプに見えますが、実はとてもウェットな女性じゃないかと思うんです。いつかは捨てられるかもというところは、見ないようにフタをしていたというか、勤めだと思っていたはずが、本当に愛してしまっていたのではないでしょうか。


明るく優しいお姉さんの役が多かったから
ダークサイドの役をいま楽しんでる


大介を15年もの長きにわたって魅了し続ける相子の美しさも、ドラマの見どころのひとつです。

内田:ハリウッド女優のナタリー・ウッドの髪型を参考にしてメイクさんに作っていただきました。原作に『外人のような』という描写があるので、衣装やメイクを普段のものから違った印象になるよう少し強めに作ってもらうなど、ナタリー・ウッドから受けたイメージを膨らませていきました。

内田さんといえば、今までのお芝居でもあまり“悪人”を演じていらっしゃる印象がありません。とても溌剌とした役柄が多いイメージです。

内田:そうですよね(笑)。陰と陽なら“陽”の役が多く、優しいお姉ちゃんとか優しい先輩といったキャスティングが多かったのですが、ここにきて今回この役を頂いたのはとてもありがたくて。私にこの役ができる、と見てくださったプロデューサーの方に感謝してます。最初の産みの苦しみはすごくありましたが、演じてみると何とも言えぬ興奮があり……(笑)。何話目かに、吉岡里帆さん演じる万樹子を追いつめていくというシーンがあるのですが、万俵家のいびつな環境を他人に知られてはならないと、万樹子を何とかこちらの手中に収めようという使命感が私の中に湧き上がってきました。それは私にとっても新しい感覚でした。ドラマの記者会見で里帆ちゃんが「子供がお化けを見て驚き、涙が出るような感情だった」と相子とのシーンを表現していましたが確かに“この世のものではない”ような空気感が降りてきた感じがあったんです。山崎豊子さんが書かれた“相子”がその場にいるような感覚を撮影中に何度も経験させていただきました。

 

1992年に女優デビューをされてからコンスタントに映画やドラマで活躍、女優としての道を歩かれている内田さんに、ご自身にとって“女優”とはどんなお仕事なのか、改めて伺ってみました。

内田:女優のお仕事を続けるのは、年々怖くなってきています。きっと皆さんも同じだと思うのですが、段々失敗ができなくなくるし、結果を出して当たり前と言われるようになるし……。年齢を重ねるというのは、そういうことですよね。新人ではないですし、若くもないのですから、結果を出さないと人は褒めてくれませんし、評価もされません。最終的には自分との闘いでしかないのかなと思います。どれだけ自分が頂いた役を掘り下げることができて、それを見てくださる方を“目が離せない”状態へ持っていけるのか――。それに尽きるんです。常にプレッシャーと向き合っている分、例えば今回なら相子とビシッとリンクして一体化したときにはとても幸せを感じられ心が満たされていきます。

内田さんは現在45歳。ミモレ読者と同世代ですが、やはり同じように仕事に関する立ち位置も変わってきたのだと続けます。

内田:頂く役柄が相子のようなダークサイドの人間になるわけですから、天真爛漫でいい年齢ではないんですよね、失敗してはいけないと強く思う部分もあれば、もっとしなやかに、自分を緩めてあげてもいいんじゃないかと思う自分もいたりして、40代は女優としての過渡期と思うようになりました。30代も大変でしたが、今から考えると、ずっとラクでしたね(笑)。いいものを提供したい、妥協したくないという思いがすごく強くなっているし、いま踏ん張らないと私の望む姿になれないんじゃないか、そうなるためにまだまだ何段階も踏ん張らないといけないんじゃないかと考えています。

 


奇跡は、努力を続けた人にだけ起こるから
自分も努力をし続けていたい。


年齢を重ねるにしたがって、「自分に厳しくなりました」と笑顔で教えてくれました。内田さんが考える“いい熟女”とはどんな女性?

内田:“朗らか”の一言に尽きますね。朗らかでしなやかでいることが私の目標。酸いも甘いも痛みも喜びも悲しみもすべて経験して受け止めたあとで、全部手放せる潔さが今後持てたら素敵なんじゃないかなって思います。

内田さんには朗らかな印象しかありませんでしたが、ご本人が考える“朗らか”というのは、また違うようです。

内田:朗らかに見えますか? 多分、一緒に仕事をしたら「この人結構細かくてうるさい」と思われると思いますよ(笑)。見た目はスーッとしていても、水面下では一生懸命脚を動かす白鳥のようにいつもバタバタしているんです。でも、そこは絶対に見せたくない。それでいいと思うんです。努力なくして素敵なことは生まれないと思っていますから。私がそう思うようになったターニングポイントは中井貴一さんとご一緒した『最後から二番目の恋』というドラマでした。貴一さんの突き詰めて突き詰めたうえで手放すことのすごさ、すべて計算された後に最後は肌で感じたものを出すという緩急といいますか、その演技の美学に触れさせていただきました。それが35歳くらいだったんですが、そのときから演技コーチをつけ、表情、仕草、歩き方、笑い方など全部を研究し始めました。でも撮影現場に行けば、そういったことはすべて手放して、イチから共演者の皆さんとお芝居を作り上げる……。そういう作業を10年繰り返しています。何もしなかったら奇跡が起こらないのは当然で、血のにじむような努力をした人にしか奇跡は起きないと思っています。努力があってこそそういった芝居ができる、目の離せない役者になれるのだと気が付いてからは、自分ももっと努力したい、自分に足りないのはそこなんだと思うようになりました。

最後に内田さんはこう締めくくってくださいました。

内田:でも、いつも血がにじんでいたら痛いですからね(笑)。やがてカサブタが取れて、また新しいキレイな皮膚を纏い、追い求めている理想の自分と出会えるように、これからもずっと努力していきたいと思います。

 

内田有紀
女優。1975年11月16日生まれ、東京都出身。1992年テレビドラマ『その時、ハートは盗まれた』で女優デビュー。94年『時をかける少女』で連続ドラマ初主演。2000年には『北区つかこうへい劇団』に8期生として入団するなど、舞台でも活躍。2012年からは『ドクターX~外科医・大門未知子~』シリーズで凄腕の麻酔科医・城之内博美を6シーズンに渡って演じる。華麗なる一族(2021年4月、WOWOW)では、中井貴一演じる万俵大介の愛人・高須相子で出演。

<ドラマ紹介>
『連続ドラマW 華麗なる一族』
4月18日(日)スタート(全12話)
毎週日曜 夜10時放送・配信[第1話無料放送]
[WOWOWプライム][WOWOW4K][WOWOWオンデマンド]


2016年、WOWOW開局25周年記念として放送され話題となった、山崎豊子原作の「連続ドラマW 沈まぬ太陽」。そして2021年、開局30周年を迎えるWOWOWは、同じく山崎豊子の傑作小説を原作にした「連続ドラマW 華麗なる一族」をお届けする。大阪万博を間近に控えた日本の高度経済成長期、富と権力獲得の手段として、関西の政財界で閨閥(けいばつ)を張り巡らす阪神銀行の頭取・万俵大介を中心に、一族の繁栄と崩壊が描かれる。
脚本には、「連続ドラマW 沈まぬ太陽」など人物描写を丁寧に重ねていく幹の太いシナリオに定評のある前川洋一。監督は、映画『劇場版コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-』や数々の名作ドラマを手掛けた西浦正記が務める。そして壮大な野望の実現に突き進む主人公・万俵大介を、2019年に公開された大ヒット映画『記憶にございません!』での好演も記憶に新しい中井貴一が演じる。

 

高度経済成長期の日本。預金高10位にランクされる阪神銀行のオーナー頭取、万俵大介(中井貴一)は、銀行のほかにも多くの事業を手掛ける万俵コンツェルンの総帥だった。大介は長女・一子(美村里江)の夫である大蔵省のエリート官僚の美馬(要潤)から、都市銀行再編の動きを聞きつけ、生き残りを目指して大手銀行を吸収合併しようと画策する。
その一方で、万俵家には、大介の妻・寧子(麻生祐未)と、阪神銀行と同じく万俵コンツェルンを支える柱の一つである阪神特殊製鋼の専務取締役の長男・鉄平(向井理)、阪神銀行に勤める次男・銀平(藤ヶ谷太輔)、次女・二子(松本穂香)、三女・三子(福本莉子)のほかに、長く同居する大介の愛人・相子(内田有紀)の存在があった。家庭内で大きな力を持ち、万俵家の閨閥づくりを推し進める相子の存在を鉄平たちは疎ましく思っていた。さらに鉄平は、悲願としていた高炉建設の融資をめぐって大介と対立し、2人は確執を深めていく。

<出演>
中井貴一 向井理 藤ヶ谷太輔 吉岡里帆 松本穂香 要潤 工藤阿須加 美村里江 笹本玲奈 福本莉子 / 麻生祐未 高嶋政伸 / 萬田久子 田中麗奈 加藤雅也 石黒賢 石坂浩二(特別出演) 内田有紀

原作:山崎豊子『華麗なる一族』(新潮文庫刊) 脚本:前川洋一(「連続ドラマW 沈まぬ太陽」ほか) 監督:西浦正記(「コードブルー」シリーズほか)
池澤 辰也(「WOWOW×東海テレビ共同製作連続ドラマ ミラー・ツインズ Season1&Season2」ほか) 音楽:得田真裕(「MIU404」ほか) チーフプロデューサー:青木泰憲 プロデューサー:高江洲義貴 稲葉尚人 佐藤雅彦 制作協力:角川大映スタジオ 製作著作:WOWOW
特設サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/ichizoku/

取材・文/前田美保
構成/川端里恵
この記事は2021年4月16日に配信したものです。
mi-molletで人気があったため再掲載しております。
 
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