長引くコロナ禍で、職場や家族といった身近な人間関係で悩みを抱える人が少なくありません。脳科学者で医学博士の中野信子さんはその理由のひとつを、人間の脳は近づきすぎると傷つけ合うようにもセットされているから、と分析します。そのうえ、人は何かと比較しないと幸福を感じられないのだとか。そういうちょっと残念な脳の性質を知れば、負の感情にも対処できることもあるかもしれませんよね。そんな、相手も自分も幸せになるヒントを、中野さんの新刊『生贄探し 暴走する脳』(ヤマザキマリさんとの共著)からご紹介します。

 


幸せそうな人を見ると、なぜモヤッとするの?
 

こんな人はいないでしょうか。

自分が苦しい状況の中、必死で頑張っているのに、ラクして得している人を見ると、どうも、モヤッとしてしまう。リアルな知り合いではなくても、メディアでそんな人を見るだけで、イラついて仕方ない。

なぜあいつだけいい思いをしているんだ。腑に落ちない。腑に落ちないどころか、死ねばいいのにとすら思う。目につくところに、ダラダラと働かずに遊んですごしている人がいるというだけで、ムカつく気持ちがおさえられない。

 


コロナ禍を経て、こういうささくれだった気持ちになる人が、どうも身の回りに増えてきた印象があります。
  
みなさんの周りでは、どうでしょうか。

ただ、こんなふうに問いかけられることで、あまり萎縮しないでほしいとも思います。こうした一見ネガティブな心の働きも、ごく自然で健康な、生物としての人間の機能のひとつではあるのです。正常な心の動きをことさらに無視して、自分はそんなことはかけらも思ったことはない、などと、きれいごとで糊塗してしまう必要はまったくありません。

とはいえ、自分が誰かに対してイラついたりモヤッとしたりという気持ちを持てば、同じ状況になったとき、自分もそう思われてしまうのではないかと、心配になってしまうのもまた人間の性(さが)でしょう。