超高齢社会を生きる私たちが望むのは、ただ長生きするのではなく、“死ぬまで元気”でいること。なるべく人の手を借りず、最期まで自立した生活を送りたい。そのために、今すぐできることは何か。NY在住の老年医学専門医、山田悠史先生の新刊『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(6月24日発売)から、その答えをひとつご紹介します。

「最期まで仕事をやり通すことが一番の希望」


医師として多くの人の人生の一部を伴走させていただくと、顔かたちが人それぞれ違うように、人生に対する考え方もそれぞれ大きく異なることがよくわかります。

人工呼吸器を装着するか否かという選択を迫られた際、ある人は「自分はファイターで常に病気と戦い続けてきた。人工呼吸器も希望したい」と言い、またある人は「私は機械につながれてまで生きたいと思ったことはない。人工呼吸器は使わないでほしい」と言います。

どちらが正解、どちらが不正解ということではなく、自分の生き方や価値観に合った選択こそがその人にとっての正しい選択なのだと思います。もちろん、そのような選択は命に関わるものでもあり、決して簡単ではありません。はっきりと意思が決まっている人もいれば、悩む人もいます。

深刻な病気が生じると、難しい選択に迫られることがあります。どちらも捨てられないと思っても、どちらかしか選べないという時があります。これは、もしかすると人生のいろいろな場面でそうだったかもしれません。二つの大学に合格した時、複数の会社に進む選択肢を目の前にした時。日本に残って研鑽を積むべきか、海外に渡って自分を磨くか。

 

治療方針の選択にあたって、そのような悩ましい選択をしなければならない時、参考になるのが「自分にとって大切なものは何か?」の答えです。

あるがんの患者さんは、治療方針を決める前に、「何が一番大切か」という問いに胸をはってこう答えてくれました。

 

「私の人生を振り返ると、すべて仕事でした。妻ももちろん大事です。ただ、生涯をかけて会社をずっと守り続けてきました。仕事は私の人生。最期の最期まで仕事をやり通したい。これが私の一番の希望です。ただし、受けられる治療があるのなら、治療も受けたいと思っています」

奥様もそれをよくわかっており、深く頷きながら、「夫には、自分らしく最期まで生きてほしいと思っています」と教えてくれました。