超高齢社会を生きる私たちが望むのは、ただ長生きするのではなく、“死ぬまで元気”でいること。なるべく人の手を借りず、最期まで自立した生活を送りたい。そのために、今すぐできることは何か。NY在住の老年医学専門医、山田悠史先生の新刊『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(6月24日発売)から、その答えをひとつご紹介します。

「最も大切にしていること」や「生きがい」は、人生の重要な選択においての羅針盤になります。私自身、医師として人生の最期の瞬間をお手伝いさせていただいた経験の中で、十人十色の生き方、生き様を教えてもらいました。

内閣府が2020年に行った60歳以上の人に対する調査(参考文献1)によると、「生きがい」を多少なりとも感じている人は67.4%で、まったく感じていないと答える人は1.7%にとどまっています。また、「生きがいを感じる時」として「家族との団らんの時」、「おいしいものを食べている時」という答えが上位にあがっています。

多くの人にとって、家族の存在や食事が、生きる喜びにつながっているところをうかがい知ることができます。もし具体的なものが思い浮かばない人でも、家族との時間、食事の時間、趣味の時間などを比較して、その中で優先順位をつけることはできるかもしれません。

健康な老後に不可欠とされる「5つのM」。その5つ目である”Matters Most to Me”はもしかすると、5つのMの中で最も大切なものなのかもしれません。

科学的な根拠に基づいた健康的に歳を重ねる方法で、例え多くの人にプラスと思われても、それらがあなたの「生きがい」を損ねてしまうのであれば、あなたにとってはマイナスかもしれません。生きがいは、すべてのエビデンスをも覆すほど、大きな力のあるものかもしれないのです。

 


「タバコが人生そのもの」と言われたら……


私がまだ日本で仕事をしていた時、あるタバコ農家の人がこう言いました。

「物心がついた時から、自分の生活にはタバコがありました。タバコのおかげでお金をもらえていますし、逆にタバコがなければ私は死んでしまいます。タバコが体に悪いのも知っています。でも楽しんでいる人もいます。タバコは私の人生そのものなのです」

 

いつもなら私は必ず禁煙の大切さについて話します。医師である私の仕事の目的は、多くの人の健康の手助けをし、より健やかな日々を過ごしてもらうことです。数えきれないほどの喫煙者の後悔の涙を見てきたから、そして禁煙の益を知っているからこそ、どんなにタバコが好きだと話す人にも熱を込めて話すのです。

しかし、この方の前では禁煙の話ができませんでした。「タバコが人生そのもの」と言い切る人の前では、その日出会ったばかりの私の浅はかな理解に基づく健康の話は、むしろその人の健康にとっては害になるだけだとすら思わされました。

だからといって、愛煙家にタバコを続けることを勧めるつもりはありません。少なくとも、禁煙の重要性を正しく理解してもらうよう努めるでしょう。それでも、人生で最も大切なものだと言われれば、私はその人なりの人生を支えたい。生きがいには、そのような力があると思います。

 
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