92「人生会議」を知っていますか？もしもの時に備えて家族と話そう【医師・山田悠史】

人の価値観は時間とともに変化する

しかし、実は人生会議について、その意義や方法論に異を唱える論文(参考文献5)も報告されており、現在もなお議論されているところでもあります。人生会議がはるかに浸透している米国では、それが浸透したうえでも、あまり患者さんのケアが改善されていないと指摘されているのです。

過去に行われた計1600もの研究をまとめた報告(参考文献6)では、人生会議が終末期の意思決定に影響を与えること、患者の目標に沿った治療の可能性を高めること、患者や家族の生活の質を改善させることとの関連は残念ながら示されなかったと報告されています。

また、最近の62の研究をまとめた論文(参考文献7)でも、人生会議が患者の目標に沿った治療や患者の生活の質改善につながるという証拠を見つけられなかったと報告されました。それ以外にも、不要な入院、救命処置の利用を減らすといった証拠を見つけられないとする報告もあります。

というのも、事前に人生会議が行われていたとしても、人の価値観は時間とともに、あるいは病気の存在やその進行とともに大きく変化し、事前の話し合いの内容と大きく変わってしまうことがあるからです。

また、話し合いの内容が必要な時に文書として入手できなかったり、文書として存在しても、それがかえって重要な局面での大切な話し合いを省略させてしまったりということが起き得るからだとも考えられています(参考文献5)。

だとしたら、医師としては「このまま現行のような人生会議を励行していてよいのか？」という疑問も生じます。

また、人生会議はとても時間のかかるプロセスです。私の働いている米国の医療機関でも、非常に多くの時間を費やして行っています。先の論文の中では、人生会議に使われてきた時間を他のことに活用し、長い人生会議のプロセスよりも、意思決定代行人を決めておくことや、最期の時の意思決定のプロセスこそが大切かもしれないという提言もされています。

この議論は、未だ結論のないものですが、だからといって、人生会議のプロセスすべてが無駄であるという意見があるわけではありません。この先、より多くの人にとって意味のあるものになるには、まだまだ改善の余地が大きいものであるということです。

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参考文献
1    「人生会議」してみませんか｜厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html (accessed Dec 24, 2021).
2    人生の最終段階における医療に関する意識調査 報告書 平成 30 年 ３ 月 人生の最終段階における医療の普及･啓発の在り方に関する検討会. .
3    Seckler AB, Meier DE, Mulvihill M, Cammer Paris BE. Substituted judgment: how accurate are proxy predictions? Ann Intern Med 1991; 115: 92–8.
4    Uhlmann RF, Pearlman RA. Perceived Quality of Life and Preferences for Life-Sustaining Treatment in Older Adults. Arch Intern Med 1991; 151: 495–7.
5    Morrison RS, Meier DE, Arnold RM. What’s Wrong With Advance Care Planning? JAMA 2021; 326: 1575–6.
6    Jimenez G, Tan WS, Virk AK, Low CK, Car J, Ho AHY. Overview of Systematic Reviews of Advance Care Planning: Summary of Evidence and Global Lessons. J Pain Symptom Manage 2018; 56: 436-459.e25.
7    McMahan RD, Tellez I, Sudore RL. Deconstructing the Complexities of Advance Care Planning Outcomes: What Do We Know and Where Do We Go? A Scoping Review. J Am Geriatr Soc 2021; 69: 234–44.