超高齢社会を生きる私たちが望むのは、ただ長生きするのではなく、“死ぬまで元気”でいること。なるべく人の手を借りず、最期まで自立した生活を送りたい。そのために、今すぐできることは何か。NY在住の老年医学専門医、山田悠史先生の新刊『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(6月24日発売)から、その答えをひとつご紹介します。

もしもの時に備えて、あなたが望む医療やケアについて家族や医師と話し合っておく取り組みを「人生会議」といいます。ここでは、実際に医療機関ではどのような流れで人生会議が行われているか、その一端を紹介します。

 


相互理解を深め、治療方針を話し合う


人生会議は、本人に意思決定能力があるかの評価から始まります。そもそも判断能力を欠く状態では、話を進めることができないからです。そのうえで、現在の病状の理解を確認し、医療者からは必要な情報提供が行われます。

その後、あなたが大切にしていることについて話をします。あなたが残された時間をどう生きたいか、治療や医療に求めるものは何か、どのような治療目標を持っているかなどがそのテーマになります。

もしあなたが、薬は最小限にしたい、長生きよりも痛みを感じないことが最優先事項だという場合には、長生きを助ける薬を増やすよりも、痛みをとることが最適な治療かもしれません。

あるいは、少しでも長生きして、家族との時間を楽しみたいという場合には、自宅での時間を大切にできるよう、自宅でできる最大限の治療を考えることになるでしょう。

 

そういった価値観への理解を深めたうえで、人生会議では、万が一の時のための備えもします。

例えば、万が一心臓が止まってしまった時に心臓マッサージをして延命をしてほしいのか、万が一呼吸が止まってしまった時に人工呼吸器を使って欲しいのか、といったことです。ある人は「もちろん可能性があるのならチャレンジしてほしい」と言いますし、またある人は「自然に最期を迎えさせてほしい」と言います。このように、判断は個人によって大きく変わります。

この判断は、患者さん個人にとって最も大きな決断の一つです。同時に、多くの場合において、そのような状況は緊急事態であり、咄嗟の判断を求められることでもあります。だからこそ、人生会議の大切な一部となっています。

また、体調を崩して入院した場合には、命の危険が差し迫っている状況でなくとも、医療機関で尋ねられることがあるかもしれません。この決定は、医療機関では「コードステータス」と呼ばれ、必ずカルテのわかりやすい位置に記載されるようになっています。

それ以外にも、余命が短いと考えられる状況で、例えば、食事が口からとれなくなってしまった場合に、チューブなどを使って栄養を摂ることはどう考えるか、感染症になった際に抗菌薬を使用して治療するのはどうか、そもそも病院に搬送されることについてどう考えるか、などについても具体的に話し合っていきます。

「感染症に抗菌薬」なんて当たり前だろうと思われるかもしれません。しかし、残された数週間を自宅で安静に過ごしたい、痛みのある検査などはもう受けたくないという人に対しては、病院での血液検査や点滴での抗菌薬治療がかえって負担を増やし、必ずしもその人の助けにならないという状況があり得るからです。

このように、相互理解を深めるだけでなく、重要な治療方針について、なるべく本人の選択に沿って行えるよう、事前に具体的に話し合いを行って準備していくプロセス。これが「人生会議」です。

 
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