隠すのではなく、「ブラッシュアップする」のがカバーリングメイク

――「カバーリングメイクは心を支える」という投稿に、あおつきさんご自身が「自分も救われた一人」だと書かれていましたが、それはどういった出来事だったのでしょうか。

あおつきさん:これはカバーリングメイクとちょっとリンクするかどうかは別の話かもしれないんですけど、 私はもともと自分の容姿が嫌いで。肝斑があったり、年を取ってきたらだんだんそばかすも増えたりしてきたのですが、ファンデーションなどを塗っても綺麗に消せなかったんです。なので、もう「別にメイクはしなくていいや」ってあきらめていたんです。そんななか、実は私の家族が形成外科にかかり、顔の手術をしなければならなくなったんです。

メスを入れるので顔に傷が残る可能性があるんだけれども、「顔の傷をうまくカバーできるメイクがあるよ」ってことを、病院で教えていただいたんです。 そこで、初めてカバーリングメイクというものを教えていただいて。実際に目の前でメイクをするところを見せてもらったんですけれど「すごいな」と思ったんです。
見た時に「あ、自分の家族だけじゃなくて、知らない人にお手伝いすることで、 いろんな人にお伝えできる」と感じたところからスタートしたので。私も自分自身でカバーリングメイクの技術を習って、自分に施すことで自信が持てた。そして、皆さんにカバーリングメイクを伝えるところまでできたということが、私が救われたところだな、と思っています。


――カバーリングメイクの情報は病院で教えてもらえるんですね。

あおつきさん:一部の病院が、患者さんに向けて外見に対する不安などの心の支援としてアピアランスケアという取り組みをされています。

カバーリングメイクのほか、病気などで脱毛の状態にある方にウィッグや眉まつ毛のメイクなどの情報も提供しています。

 

でも、疾患で通院していないとそのケアや情報の存在自体知らないことが多いので、カバーリングメイクというものの存在を知らない方も多いと思います。でも、病院に通っていなくて、不調も別に何もないけど、顔に色むらがあることに悩んでいる方はすごく多いんです。

――カバーリングメイクをどんな人にもっと知ってもらいたいと思いますか。

あおつきさん:今、私が講師として通っている学校は、介護の現場で美容を通じて高齢者の方の心を支援・ケアするというものです。
介護の現場というのは皆さん、生活の中で体を動かすことや基本の排泄や食事を介助したり、見守ってあげたりということで手いっぱい。なので、美容で心のケアというところまで手が届かないのが現状なんです。
そんな現状に心を痛めていたり、介護美容のことを習いたいと思ったりして、私が講師をしているような学校に通われている看護師さんや介護士さんがすごく多いんです。

他にも長年ご自分がご両親を見てらっしゃって、「メイクをしてあげたかったけどできなかった」とか、「喜んでもらいたい気持ちがあったからやってあげたい」「他の方にもカバーリングメイクをお伝えしたい」と思う方も多いです。なので、そういった方にも知っていただきたいです。

あとは、高齢の方ももちろんそうですし、自信をなくして「この自分の顔とどう向き合えばいいのだろう」と悩んでいる方。私のような世代でシミや肝斑などでどんどん自分の容貌が変わっていくことに不安を感じたり、自信をなくしていたり、あきらめている方にも。カバーリングメイクをすることで、そこからもっと違う世界が広がるっていうのを体感していただけたらいいな、とはいつも思っています。

――高齢者に向けてのケアメイクを習われる方には、看護師さんや介護士さんが多いんですね。

あおつきさん:介護士さんが、「この利用者さんの肌がちょっと荒れているから少し保湿してあげたいな」とか思われることがよくあるそうなんですけれど、限られた時間や他の利用者さんのことなどを考えるとできない。できない現実を受け止めるしかなかったりされているようです。働く人の数や施設の限界もあるので、そんな状況をサポートしたいと思われる方が、介護美容研究所で学ばれています。

看護師さんや介護士さんには現状に限界のある美容のケアを、学校のメイク実習として施設を訪問して利用者さんと一緒に楽しめるようになる。メイクはコミュニケーションや心への作用もとても大きいので、メイクの実習に行くと、塞ぎ込んでいた方が急にすごく元気になって「写真撮って」っておっしゃるということも多いんです。


――私たちの多くは介護をお願いする側なので、介護に携わっている方が、日々どういう思いでお仕事をされてるのか、利用者の方の肌のことや美容についてどう感じているのかを知ることができてよかったです。

あおつきさん:看護や介護の世界でもどかしい思いをしているところから一歩踏み出されて、自分の知識を活かしながら別の形で利用者さんに接していこうと思われる方がすごく多いです。もちろん、社会人や主婦の方も多いです。

――最後に、カバーリングメイクを教えていて良かったと思える出来事があれば教えていただきたいです。

あおつきさん: 疾患で眉毛やまつ毛がなくなって、ご自分の顔が怖く見えるとすごく悩んでいた方なのですが、大きいサロンではなく私のように個人でやっているサロンの方が入りやすかったみたいで、そっとご相談に来られて、カバーリングメイクの練習をされていきました。

そうしたら、 職場で「すごく明るくなったね」って言われたそうなんです。その方はたまたまなんですけど、介護の仕事をされていて。 入浴介助もするので、メイクをしていても眉毛やまつ毛が汗で流れてしまうことをものすごく恐怖に感じていたそうなんです。そのことについてご相談を受けていたので、汗に強いメイク製品や、こういう風に塗ってみたら持ちが良くなりますというメイク法をお伝えしたら、だんだんお上手になっていって、「アイメイクもっといいものありませんか」「チークもつけてみたいんです」とおっしゃるようになったんです。
ご自身がすごく前向きになったことで、職場でも明るくなったり、彼氏さんもできたそうなんです。
ご自身がカバーリングメイクを楽しむことで、だんだん世界が広がっていく様子を聞いて「あー、良かったな」ってすごく思いました。


――まさに「日常に溶け込んだ」という状態ですね。

あおつきさん:そうです。カバーリングメイクは「隠す」という意味合いよりも、「ブラッシュアップ」して元気になれる、お守りのようなものとして利用していただけるようにお伝えしています。
「安心して生活に溶け込んでゆく」のがカバーリングメイクなんです。

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誰でも病気で今の容貌から変わってしまう可能性はあります。その時、「日常に溶け込める」カバーリングメイクがあれば、病と闘う心も救われるに違いありません。お守りのようにいつでも利用できるように、誰でもすぐに手に入るプチプラコスメを使用することを心がけているというあおつきさんの気持ちに感動したインタビューでした。

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次回の「SNSで見つけた『バズり人』さん」もお楽しみに!
 


写真/Shutterstock
構成・文/大槻由実子
編集/坂口彩

 

 

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