楾 期限が書かれていない現行53条は、いわば「ライオンが鉄格子を広げて抜け出せるような檻」ですね。「20日以内に」などと書き込めば、檻を広げづらくなります。時々、「ライオン(国会議員)が檻(憲法)を変える議論をすること自体が憲法違反だ」という人がいますが、議論すること自体が憲法違反というのは言い過ぎです。改憲の発議をするのは国会ですから(96条)、国会議員が改憲の議論をすることは憲法が想定するところです。問題は、何条をどのような言葉に変えようとしているのか、議論の具体的な中身です。ライオンが檻から出やすくする方向に変えるのか、出にくくする方向に変えるのか。私たちのための改憲かどうかを、改憲案ごとに私たちが判断できなければならないのです。

渥美 自民党以外の党が、どういう改憲案を出しているのかを見るのも興味深いかもしれませんね。

楾 国民民主党の改憲案もぜひ見てみてください。こちらは「ライオンが檻から出まくってるから、ちゃんとした檻に作り直そう」という視点が入っていて、なかなかの読み応えです。例えば、79条の裁判官の任命ですね。
 


79条最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
 


楾 1項の最後に「内閣でこれを任命する」とありますが、誰をどう任命するか詳細がないので、内閣が都合のいい人を任命できるかのようです。たとえば、安倍政権のモリカケ問題が浮上した年の前年、2016年には、加計学園の監事だった弁護士が任命されているんですよ

渥美立原 えええーーー!

楾 国民民主党の改憲案には、政治的意図のある任命がしにくいように、任命手続を透明化しよう、ということが書かれています。ほかにも、裁判所が違憲判決を出すことに消極的な現状をふまえ、「憲法裁判所」を設ける案や、衆議院解散・総選挙が時の政権に都合のよいタイミングで行われている現状をふまえ、解散権を制約する条項を加えてはどうか、といったことも書かれています。

立原 立憲民主党はどういう改憲案を出してるんですか?

楾 立憲民主党は、改憲の論点や考え方についての文章は出していますが、改憲案は作っていません。

渥美 ちなみに最新の自民党改憲案は2018年のもので4項目だけ。「自衛隊の明記」「教育の充実」「合区の解消」「緊急事態条項」ですよね。内容をよく知りもしないまま、なんとなくいいんじゃないの? とかいう人もいそうな気が……。

楾 いるかもしれませんね。「ずっと改憲されてこなかったから」とか「アメリカに押しつけられたものだから」とか。

渥美 戦後日本で改憲といえば9条の話で、「改憲なら右、護憲なら左」という構図で議論されてきましたよね。イデオロギー論になっちゃうことが、改憲の議論の妨げになってるんですね。

楾 そうですね。「憲法」という言葉を聞いたらすぐ「右ですか左ですか」みたいな。「護憲派」「改憲派」という言葉自体、使わない方がよい言葉だと思っています。もともとそんな単純な二分論ではありません。憲法には9条以外の条文もたくさんあります。右とか左とか言う前に、立場の違いを超えて、まずは主権者である私たちが憲法とは何かを知り、これを使いこなしていってこそ、「国民主権」です。そういう思いで執筆したのが 『檻の中のライオン』です。年中、全国を講演して回っているので、SNSでチェックして、ぜひ一度お越しください。
 

【『虎に翼』でも話題の“日本の法”】憲法が縛るのは「国を動かす権力者」。『檻の中のライオン』著者・楾大樹さんが語る「憲法とは?」<日本一わかりやすい憲法の授業①>_img0
 

<書籍紹介>
『檻の中のライオン』

楾 大樹・著 かもがわ出版 1430円(税込)

憲法は権力をしばるもの。憲法を「檻」に、権力を「ライオン」にたとえ、イラストで解説。立憲主義がわかる憲法の入門書。


 

 


次回は6月25日公開予定です。
 


写真/Shutterstock
イラスト/今井ヨージ
取材・文/渥美志保
編集/立原由華里
 

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