小さな子どもの無邪気な質問から思春期の娘や息子の真剣な悩みまで、「性」にまつわる疑問に自信を持って答えられる大人って、あまりいないのではないでしょうか? そんな世相を反映してか、25万部超の大ヒットとなっている「とある本」があります。今注目を集めるキーワードを深堀りする連載「ニュースなことば」、今回社会派ライターの渥美志保とミモレ編集部の坂口がお届けするテーマは「おうち性教育」です。「性教育」はなんのために必要なのか、学校教育で行われている「性教育」の現状はどんなものなのか、なぜ家庭での「性教育」が脚光を浴びているのかについて。前回、前々回に続き第3回目です。今回も、ベストセラー本『おうち性教育はじめます』の共著者である村瀬幸浩さん、さらに同書籍の編集担当の因田亜希子((株)KADOKAWA)さんにもご参加いただきます。

第1回「「生理に無知で悪かった」50年前、妻に謝罪したことが原点に。性教育の「草分け」が教える学校教育の現状」>>

第2回「「性はよくない、けがれたもの」か?「拒否感」ではなく「安心」を育てるために不可欠な「性教育」3つのポイント」>>

妻は/夫は「どう思ってるの?」中高年は「性」を話し合えるようになる性の学びのチャンスでもある<今考えたい「おうち性教育」第3回>_img0
イラスト:Shutterstock

アツミ:前回は「日本の性教育」とは異なる国際基準の「包括的性教育」についてちらっとお話が出てきましたが、この「包括的」って言葉、なんとなくわかるようなわかんないような感じしませんか。

坂口:総合的なとか、網羅した、全部まとめて、みたいな意味ですよね。

アツミ:前々回、こういうキャプションを入れたんですが。


※包括的性教育
性を、家族についての理解をはじめ、人との関わり方や相手の立場を考えることとして捉え、性交や出産はもとより、科学・人権 ジェンダー平等に基づき幅広く、年齢に応じたカリキュラムに沿って学ぶ性教育。


坂口:なんと人権まで包括してるんですね!

アツミ:そうなんです。「包括的性教育」は「セックスのやり方を教える」なんてもんじゃない、社会と深くかかわる様々な要素が含まれています。今回はそのあたりをお聞きしたいと思います。まずは単刀直入に、村瀬さん、性教育と人権意識って関係があると思われます?
 

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村瀬幸浩さん東京教育大学(現筑波大)卒業後、私立和光高等学校保健体育科教諭として25年間勤務。この間総合学習として「人間と性」を担当。1989年同校退職後、25年間一橋大学、津田塾大学等でセクソロジーを講義した。現在一般社団法人“人間と性”教育研究協議会会員、日本思春期学会名誉会員。

因田亜希子さん『おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方』(著:村瀬幸浩・フクチマミ)シリーズの担当編集。9歳児の母。

 


村瀬:おおいにあると思います。例えば世界経済フォーラムが毎年発表しているジェンダーギャップ指数ってありますよね。
 


※ジェンダーギャップ指数
スイス非営利財団世界経済フォーラムが2006年から毎年発表しているもの。世界156か国の国内における男女格差を「教育/経済/保健/政治」の4分野で数値化したもの。2023年の日本の順位は125位。この数年はG7で最下位が続いている。
 


アツミ:毎年日本の順位が下がっていて、がくーん……という気持ちにさせられる、あれですね。

村瀬:ここにあるのは2020年の資料(日本の順位は121位)ですが、「結婚で夫の姓にする女性=96%」「7人に1人が、配偶者からの暴力被害が何度もあった」「気が乗らないのに性交渉に応じたことがある=63.1%」など残念な内容です。

坂口:「結婚で夫の姓にする」なんて日本国内だとあまりに当たり前に受け入れがちですが、こうした国際的な比較が出ると「ああ、男女不平等のあらわれなんだな」って気づかされます。

アツミ:そのほかの項目を見ても、女性の自己決定や自由意志がないがしろにされることが当たり前になっている感じ……。

村瀬:ジェンダーバランス上位の国、北欧諸国などは、逆にきちんと包括的性教育を実践している国なんですよ。どういうことかというと、これらの国では性教育=人権意識を育てることで、それが実際の男女格差に反映されているんです。「どうして日本は性教育がすすまないんですか?」と質問されるのですが、それはジェンダーの不平等が当たり前のように考えられている国だからです。ジェンダーの不平等と性教育には深い関係があるんです。

坂口:ひな壇に並ぶ閣僚の中に女性が1人か2人しかいない(※対談は2023年5月実施)のと、性教育が進まないのは同じ問題ってことなんですね。

村瀬:先日、対談でご一緒した田嶋陽子先生が「日本は本当に長老男性社会」と言っていましたが、まさにそうですよね。

坂口:民間企業もそうです。例えば、弊社でも女性の役員はまだ少ないですし。女性管理職がもっともっと増えてほしいです。

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因田:昇進した同僚に聞いたのですが、「女性を増やさないといけないからさ」とわざわざ言われたそうで……。それも、もやもやしますよね。

アツミ:大手マスコミは、本当にマッチョな感じですよね。

村瀬:日本の会社はほとんどがそうだよね。