今うつ病でも、治療をすれば認知症の予防になる!
このようにして、うつ病が認知症を引き起こす可能性があります。しかし、うつ病をすでに患っている方も、そのご家族も、それを知って肩を落とすのはまだ早いかもしれません。うつ病の治療は、将来的な認知症リスクを減らしてくれる可能性があるのです。
英国で行われた大規模な研究では、50〜70歳のうつ病と診断された約4万6千人を12年間追跡しました。この研究によれば、うつ病の人の中でも、治療を受けた人は、未治療の人に比べて認知症のリスクが低かったのです(参考文献9)。
具体的には、薬による治療を受けた人では、認知症のリスクが約23%減少していました。これは、薬によって脳内の化学的なバランスが整い、脳の健康が保たれた可能性があります。また、心理療法を受けた人では、リスクが約26%減少していました。カウンセリングやセラピーを通じて、ストレスや不安を軽減することで、脳への悪影響が減ったのかもしれません。さらに、薬物療法と心理療法の両方を受けた人々では、リスクが約38%も減少していました。
これは、うつ病の治療が認知症のリスクを下げる「予防薬」のような役割を果たしているとも言えます。例え火事が起こりそうになってもボヤのうちに火を消し止めれば自宅の「健康」を大部分守ることができるのと同じように、うつ病も早めに適切な治療を受けることで、将来的な脳の健康を大きく守れる可能性があるのです。
こうして見てきたように、うつ病は、認知症の修正可能なリスクとして知られています。ソーシャルメディアの使いすぎのような、うつ病のリスクとなりうる生活習慣を改善してうつ病を予防すること、仮にうつ病を発症しても、適切な治療を受けることが、認知症リスクを減らすことにつながります。逆に、せっかくの休日にもソーシャルメディアばかり見ていると、うつ病、ひいては認知症のリスクを高めることにつながってしまうかもしれません。
『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』
著:米マウントサイナイ医科大学 米国老年医学専門医 山田悠史
定価:本体1800円(税別)
講談社
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高齢者の2割には病気がないことを知っていますか? 今から備えればまだ間に合うかもしれません。
一方、残りの8割は少なくとも1つ以上の慢性疾患を持ち、今後、高齢者の6人に1人は認知症になるとも言われています。
これらの現実をどうしたら変えられるか、最後の10年を人の助けを借りず健康に暮らすためにはどうしたらよいのか、その答えとなるのが「5つのM」。
カナダおよび米国老年医学会が提唱し、「老年医学」の世界最高峰の病院が、高齢者診療の絶対的指針としているものです。
ニューヨーク在住の専門医が、この「5つのM」を、質の高い科学的エビデンスにのみ基づいて徹底解説。病気がなく歩ける「最高の老後」を送るために、若いうちからできることすべてを考えていきます。
参考文献
1. Ivie EJ, Pettitt A, Moses LJ, Allen NB. A meta-analysis of the association between adolescent social media use and depressive symptoms. J Affect Disord. 2020 Oct 1;275:165–74.
2. Keles B, McCrae N, Grealish A. A systematic review: the influence of social media on depression, anxiety and psychological distress in adolescents. Int J Adolesc Youth [Internet]. 2020 Dec 31 [cited 2024 Sep 21];25(1):79–93. Available from: https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/02673843.2019.1590851
3. Liu M, Kamper-Demarco KE, Zhang J, Xiao J, Dong D, Xue P. Time Spent on Social Media and Risk of Depression in Adolescents: A Dose–Response Meta-Analysis. Int J Environ Res Public Health [Internet]. 2022 May 1 [cited 2024 Sep 21];19(9):5164. Available from: https://www.mdpi.com/1660-4601/19/9/5164/htm
4. Depression [Internet]. [cited 2024 Sep 21]. Available from: https://www.who.int/health-topics/depression#tab=tab_1
5. Stafford J, Chung WT, Sommerlad A, Kirkbride JB, Howard R. Psychiatric disorders and risk of subsequent dementia: Systematic review and meta-analysis of longitudinal studies. Int J Geriatr Psychiatry [Internet]. 2022 May 1 [cited 2024 Sep 21];37(5). Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35460299/
6. Livingston G, Huntley J, Liu KY, Costafreda SG, Selbæk G, Alladi S, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. The Lancet [Internet]. 2024 Aug 10 [cited 2024 Aug 10];404(10452):572–628. Available from: http://www.thelancet.com/article/S0140673624012960/fulltext
7. Elser H, Horváth-Puhó E, Gradus JL, Smith ML, Lash TL, Glymour MM, et al. Association of Early-, Middle-, and Late-Life Depression With Incident Dementia in a Danish Cohort. JAMA Neurol [Internet]. 2023 Sep 11 [cited 2024 Sep 21];80(9):949–58. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37486689/
8. Ouanes S, Popp J. High Cortisol and the Risk of Dementia and Alzheimer’s Disease: A Review of the Literature. Front Aging Neurosci [Internet]. 2019 [cited 2024 Sep 21];11. Available from: /pmc/articles/PMC6405479/
9. Yang L, Deng YT, Leng Y, Ou YN, Li YZ, Chen SD, et al. Depression, Depression Treatments, and Risk of Incident Dementia: A Prospective Cohort Study of 354,313 Participants. Biol Psychiatry [Internet]. 2023 May 1 [cited 2024 Sep 21];93(9):802–9. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36526487/
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