「これから」の社会がどうなっていくのか、100年時代を生き抜く私たちは、どう向き合っていくのか。思考の羅針盤ともなる「教養」を、講談社のウェブメディア 現代ビジネスの記事から毎回ピックアップする連載。第2回は経済評論家であり、『お金持ちの教科書』でお馴染みの加谷珪一さんの記事をお届けします。


「電話にこだわるオジサン」を待ち受ける悲しい未来
 

ここ数年、若い社員と中高年社員との間で電話論争とも言うべき状況が続いてきた。電話を使いたがらない若者に対して、中高年社員が苛立っているという図式だが、この話を世代間論争にしてしまうと物事の本質を見誤る。

電話はテクノロジーの進歩という歴史的な流れの中で、その役割の大半が消滅しつつあるが、電子メールも似たような経過を辿る可能性が高い。

社会における位置付けが大きく変わってしまったテクノロジーを使い続ける合理的な理由はない。電話に固執している中高年のビジネスマンは、いい加減、認識をあらためるべきだ。
 

テクノロジーについていけないオジサン


最初に中高年ビジネスマンの名誉のために言っておくと、いつの時代も一定数のビジネスマンが新しいテクノロジーについていけなくなる。

今の中高年世代は、今の老人世代から「手紙の書き方を知らない」「字が汚いのはダメ人間だ」などとさんざん罵倒されてきた。しかし、ワープロ専用機やパソコンが普及するにつれて、きれいな字を書けないことがビジネス・スキルの欠如とはみなされなくなった。

人は若い頃に慣れ親しんだツールへの高い依存性があり、今の若者世代もおそらく同じである。

20年後には今とはまったく異なるコミュニケーション・ツールが登場しているだろうが、現在、20代の若者が40代になった時、その大半が新しいツールについていけず、今と同じように、未来の若者世代に対して説教をしているはずだ。

どの世代に属している人であっても、常にテクノロジーは進歩し、それに伴ってツールの位置付けも変化するという現実を理解しておくべきだろう。

もう今は見ることもないタイプライター。すっかりPCに取って代わられた。

話を戻そう。相手と通信するための手段には様々なものがあるが、それぞれのツールが持つ特徴というものを考えた場合、大雑把には2種類に分類することができる。ひとつは同期的なツールで、もうひとつは非同期的なツールである。

同期的というのは、お互いがコミュニケーションを取る際に、同時刻にそのツールを使わなければならないタイプのものである。電話は同じタイミングで電話に出ないとコミュニケーションができないので、同期ツールの代表といってよい。

一方、手紙や電子メールは相手と同じ時刻に利用する必要はない。自分が見たい時に見て返事を返すことが可能だ。もはや生活インフラにもなっているLINEに代表されるメッセージング・ツールは、同期、非同期、両方の性質を持っている。チャットのように使えば同期ツールだし、電子メール的に利用するなら非同期ツールだ。

かつて電話がコミュニケーションにおける中核的存在とされたのは、タイムラグがない状態で通信できる一般的な通信手段が電話しかなかったからである。同期、非同期という複数の特性を持ったツールの中から選択された結果ではない。

ところが電話を使うのが当たり前になってしまうと、こうした事実を忘れてしまうか、そこに考えが及ばなくなってくる。