『流行通信』から『VOGUEJAPAN』『Harper’s BAZAAR』『FIGARO japon』『SPUR』などモード誌の編集を35年にわたって手がけてきたエディターの平工京子さんが、ラグジュアリーブランドからファストファッションまで、ファッション業界の社会貢献とサステイナブルな取り組みについて紹介します。

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年明けから暖かく穏やかなお天気が続いた東京。記録的な暖冬で全国のスキー場では雪不足が深刻と伝えられています。世界的にも気温は高く、国連は過去10年間の平均気温が観測史上最高だったこと1月15日に発表(*注1)しました。オーストラリアで発生している大規模な森林火災も「気候変動の影響を受けた干ばつの結果、規模が増大した」と多くの科学者が指摘しています(*注2)。一方で、投資家や企業、政府が大きく動き出したという報道(*注3、*注4)もあり、経済成長とわたしたちの生活を守るための気候変動対策が急がれていることがわかります。

(*注1) 出典:AFP BB NEWS
(*注2)出典:一般社団法人環境金融研究機構HP
(*注3)出典:現代ビジネス
(*注4)出典:一般社団法人環境金融研究機構HP


ファッションの世界でも、日常的に「サステナビリティ」ということばが会話に上ることが本当に増えてきました。これから春にかけて、いろいろなファッション誌で特集が組まれると聞いています。

サステナビリティを意識したさまざまな取り組みが始まっている中で、今回、フォーカスしてご紹介するのはリサイクル。瓶や缶、プラスティックのリサイクルなど、聞き慣れた言葉ですが、ファッションの分野では、どんな動きがあるのでしょうか。

代表的なのは、プラダのナイロン製品に対するアプローチ。昨年、始まったRe-Nylon(リナイロン)のプロジェクトの第一弾は、ブランドを代表するアイコニックなバッグを再生ナイロン繊維ECONYL®(エコニール)で再現したカプセルコレクションの発売でした。

Re-Nylonで発売されたリュック。(このコレクションはすでに完売しています)PHOTO/Courtesy of PRADA

ECONYL®はイタリアの糸メーカーAquaf i I社が開発した再生ナイロン繊維。世界各国の埋立地や海から回収されたプラスティックや、漁業網、織物繊維などを原料に作られます。しかも、プラダのようなラグジュアリーブランドが採用できる高品質のナイロンが無限にリサイクルできるという画期的な素材なのです。

 

プラダは現在、2021年末までに使用するナイロンをすべてECONYL®に切り替えることを目標に掲げています。他にもステラ・マッカートニーやバーバリーを始め、スポーツウェアやスイムウェア、ランジェリー、ストリートウェアなど幅広いジャンルで、200以上のブランドがすでにECONYL®を使用しています。

バーバリー2019年秋冬プレコレクションに登場したECONYL®のコート。

ECONYL®のような優れたリサイクル素材の開発に取り組む企業はどんどん増えていますが、古着、つまり衣類から再び衣類として着られる素材への再生に限ると、まだまだ一般化するまでには至っていません。

その実情を世界60ヶ国70社以上の企業に古着の回収サービスを提供しているI:CO(アイコレクト社)の田中秀人さんにお話を伺いました。

「回収された古着のうち60%が再販売やリメイクなど元の素材の状態を保ったものに再利用され、それに適さない古着がリサイクルなどに回されます。その大部分が自動車の制振材など、人目に触れない繊維になっているのが現状です。また、たとえばコットンの場合、繊維の性質上、製品により中に組み込めるリサイクルコットンの割合が限られる。古着から衣類に再利用できる素材が市場に流通するには、必要とされる原料をどれだけ安定的に供給、調達できるかという問題もあると思います」

このように、素材レベルでのリサイクルは、急ピッチで研究開発が進んでいるとはいえ、実用化までには乗り越えなければばらないいくつもの壁があり、現時点ではすべてを解決する救世主ではありません。また、回収された大量の古着は、まず世界各国にある仕分け工場まで船で輸送されるため、この段階でまたCO2を排出します。

では、服を移動させずにリサイクルすることは可能なのでしょうか。

その試みのひとつが、ミュベールが取り組むリメイクです。ミュベールはきれいな色や柄、ポップなモチーフを使った大人可愛いデザインが人気の東京ブランド。表参道にあるGALLERY MUVEIL(ギャラリーミュベール)には、オリジナルプリントの生地や、ブランドの世界観に合わせて国内外で買い付けたボタン、アップリケなどを扱うコーナーがあり、ここでは以前に購入した服を持っている顧客の方々にリメイクを提案しています。

ボタンやアップリケ、刺繍糸など。ミュベールの世界観に合わせてセレクトしたパーツは1点から購入が可能。


また、市場に流通しているヴィンテージに、ブランドオリジナルの生地やパーツを組み合わせた1点もののリメイクアイテムのコレクションを制作する取り組みも行っています。昨年秋には、ヴィンテージのスカーフとオリジナルプリントで作ったワンピースを新宿のビームス ジャパンで期間限定販売。現在は、ギャラリーミュベールの店舗で扱う、アウターの制作が進んでいます。

これから店頭に並ぶ、リメイクブルゾン。ボディの部分が古着。袖の生地とジュエルの装飾はミュベールのオリジナル。過去に発表したコレクションのために余裕をもって作っていた生地やパーツを使っています。ブルゾン(各)¥78000 (税抜き)お問い合わせ先/GALLERY MUVE IL (ギャラリー ミュベール)tel. 03-6427-2162

服を使い捨てるのではなくて、気に入ったものをずっと着ていく。着られなくなったものはできる限り再利用する。長年の大量消費の末にファッション界がたどりついたこの考え方は、思い起こしてみれば、もともと日本の着物文化の中にあった習慣です。環境に配慮したサステナブルなおしゃれの楽しみ方にはさまざまなアプローチがある中、ミュベールの提案するハンドメイドのリメイクは私たち日本人にはとくに親しみやすく、肌にあっているかもしれません。
 

前回記事「COS、ZARAがサステイナブルなコットンに切り替えを進める理由」はこちら>>