フリーアナウンサー馬場典子が気持ちが伝わる、きっともっと言葉が好きになる“言葉づかい”のヒントをお届けします。

悔恨の競技後インタビュー


スポーツ中継のインタビューで、私は、選手に対してとても申し訳なく、アナウンサーとしてだけでなく個人としてとても情けない経験をしたことがあります。

前回の記事でも触れた横浜国際女子駅伝(2006年)でのこと。

競技直後の生中継中のインタビューは、準備時間の短さと聞ける時間の短さ、という難しさがあります。

レース後、日本代表チームにインタビューできる時間が予定よりも大幅に短くなってしまいました。すると、現場のスタッフからカンペで、「スーパー高校生2人だけに聞いて」と指示が出ました。
もちろん、そうした時間の押し巻きなどもシミュレーションしておかなくてはならないのですが、「全員に一言ずつ聞く」または「(当時スーパー高校生と注目を集めていた)小林祐梨子選手と新谷仁美選手だけを呼んで聞く」ということは想定したものの、すでに全員が表彰台に並んでいる中2人だけに話を聞く、という状況までは想定していませんでした。
現場スタッフは、上からの指示を伝えているだけなので、「他の選手に失礼ではないか」と相談しても、再度「2人で」との指示でした。

 

他のアナウンサーだったら、または、苦い経験も重ねた今の私だったら、自分の問いかけが届かず、2度同じ指示が出たとしても、人として疑問を感じたときにはある種の勇気を持って指示に従わない、ということが出来たと思うのですが、恥ずかしながら当時の私はあまりに力不足で、自分で決断するだけの自信も覚悟もありませんでした。

さらに自分の甘さを思い知るのが、『私の懸念は伝わっているだろうし、カット割をして、2人だけを画面に映すのかな』と都合良く思い込んでいたこと。実際には、1区の小林祐梨子選手に聞いた後、6区アンカーの新谷仁美選手まで、間に並んでいる2区~5区の選手の後ろを私が移動している間、その選手たちの顔を順に映し出していたのです。

今ならきっと、その映し方を見ただけで、せめて顔を映すことで選手への敬意を払っていたディレクターの意図に気づけます。時間が全くない!と聞いていましたが、想像よりゆっくり映していましたから。1人2秒もあれば「優勝への望みをつないだ○区○○選手」など、ひとこと言えたのに……。何より、駅伝はみんなが力を合わせ襷をつないでゴールを目指すものなのに……。後悔も反省も尽きません。

事情を知り、「それは仕方ないね……」と言ってくれた先輩もいましたが、選手にも、放送を見た方々にも、そんな事情は届きませんし、関係もありません。結果がすべてですよね。

『24時間テレビ』の「チャリティーマラソン」などは、過酷な挑戦をしているご本人の負担にも配慮しながら……マイクを向けること自体に勇気がいることも。

さて、なぜこんな恥をわざわざ掘り起こしたかと言いますと……
かつてオリンピックでのインタビューで、失言を取り上げられたアナウンサーもいることを思い出しまして。
事情がどうであれ、敬意を欠いたように聞こえたり失敗したりしたら、プロとして、または人として、お叱りを受けたりご意見をいただいたりするのは当然かと思います。
ただ、みんな今の自分なりに、選手への敬意を胸に、精一杯臨んでいることだけは信じていただけたら有り難いな、とも思っています。
もちろん我々は、甘んじることなく、精進することを忘れずに……。

いわゆる「ぶら下がり」取材もまた、時間の限られた一発勝負。どうコンパクトに切り出すか、と同時に場所取りの上手さも大切です。(写真は独占インタビューなので時間もしっかり頂いているのんびりインタビューです。笑)


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