高度情報社会、新型コロナウイルスのパンデミック、インターネットを通じて単発の仕事を請け負う「ギグワーク」の拡大……。社会情勢の変化に伴い、人々の価値観や働き方はめまぐるしく変わり、多様化しています。その一つに、「副業」に対する企業や個人の取り組みや考え方があるでしょう。

 

パーソル総合研究所(東京・港区)が2021年に全国の経営層など人事管理者1500人にインターネットで実施した調査によると、正社員の副業を認める企業は55%で、18年の調査から3.8ポイント増えました。一方、現在副業をしている正社員は9.3%で、18年の調査から1.6ポイント減っています。企業の体制と、副業をする正社員の実態には開きがあるようです。

私は、会社員として働きながら登山ガイドをしています。去年からは大学で心理学を学んでいて、心理職への道も視野にあります。大学を卒業して企業に入った後も、その時々で仕事にしたいと思う対象との出会いがあり、今に至ります。

自分はどう働きたいかということは、つまり、どう生きたいかということです。現在も模索のただ中にいます。


今回は、そんな私が手にした2冊の本をご紹介します。

『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』
『LIFE SHIFT 2 100年時代の行動戦略』


目にした『LIFE SHIFT 2』の新聞広告にはこんな言葉が躍っていました。

「『人生100年時代』の言葉を生んだ“生き方バイブル”、待望の続編!!」

「パンデミックで生まれた『新常識』を契機に、誰もが『社会的開拓者』になれ!」

「人生は何度でもアップデートできる!いま、動きだそう」

長寿社会、新テクノロジー、新型コロナウイルス、リモートワーク、多拠点生活……。

大変革のただ中にいる今、私たちは何を正しいと信じ、どう行動すればいいのだろう。どのコピーも心に響き、迷いのヒントになればと思ったのです。

いずれも著者は、リンダ・グラットンとアンドリュー・スコットさん。おふたりは世界トップレベルであるロンドン・ビジネス・スクールの教授で、専門はそれぞれ心理学と経済学です。様々なデータを元に、これらの本を通して「誰もが100年生きる時代の到来」にあたり知っておくべき社会構造、あるべき私たちの姿、とるべき行動について述べています。

『LIFE SHIFT』は2016年に発売されて以降、42万部、シリーズ本も含めると50万部が売れました。「理論編」という位置づけのもと、次のことが提示されています。

◎人生100年時代の到来
世界でいち早く長寿化が進む日本では、今、50歳未満の人は100年以上生きる可能性が高い

◎3ステージからマルチステージへ
教育→仕事→引退という「3ステージ」から、仕事を長期間中断したり、転身を重ねたりしながら、生涯を通じていくつものキャリアを経験する「マルチステージ」への移行

2021年10月に発売された『LIFE SHIFT 2』は、『LIFE SHIFT』の続編にして「実践編」。住む国や年代や性別や仕事が異なる7人が登場し、それぞれの立場で、今、取るべき行動を考える内容になっています。近い立場の登場人物に寄せて、自分と向き合うきっかけになります。こちらは発売約2カ月で既に14万部を突破とのこと。

「3ステージ」から「マルチステージ」へ

2冊を読んだ私の頭には、どちらの本にも何度も何度も繰り返されていたこのフレーズが強く印象に残りました。

定年を迎えたら後はのんびり、楽しく過ごす。こういう一生でなくなっていることは、何となくわかってはいました。健康に生きる時間が長くなり、生き方の選択肢が増えることは喜ばしいというその恩恵も、わかってはいるつもりでした。とはいえ、長い人生を生きることはハードでもあるので、3ステージが通用した時代をうらやましく思い、何とか、まだ3ステージで生きられないかと考える自分もいました。

でも、これらを読んで覚悟が決まりました。人生100年という長い期間をひとつの軸に、その時々で適した働き方、学び方、休み方を考えなければ、と。

『LIFE SHIFT 2』ではこう書かれています。

「3ステージの人生では、原則として直線的な職業人生が待っている。対照的に、マルチステージの人生では、フルタイムで働く時期もあれば、仕事を中断してリフレッシュしたり、スキルを磨いたりする時期もあるし、ワーク・ライフ・バランスを改善するために休息をとる時期もあるだろう」ーー『LIFE SHIFT 2』より

つまり、「3ステージ」から「マルチステージ」の人生になるにあたり、職業人生は「直線的」から「非直線的」になる、というのです。

そう、3ステージの人生では、第3ステージである引退後を豊かにすごすという名目のもと、のちの職業人生を支えるためのスキルを育む第1ステージと、引退生活を支えるための資金を蓄えるための第2ステージをあまりにまっしぐらに進み、パンパンに詰め込みがちです。

それでは人生100年時代には早々に息切れしてしまうことは目に見えています。サステイナブルに働き、生きるためには緩急が必要なのだという思いを強くしました。

ただ、いくら自分がそういう意識をもっていても、社会的な制度がそれに応じたものでなければ実現しません。

『LIFE SHIFT 2』では企業のあり方にも触れています。

企業は履歴書の『空白期間』への見方も変えるべきだ。実験したり、移行を経験したりした人は、どうしてもそうした空白の時期が生じる。3ステージの人生を前提にすれば、履歴書に空白期間がある人は疑いの目で見られる。しかし、マルチステージの人生では、そのような時期があることは理解されるべきだ。というより、称賛されるべきですらある」ーー『LIFE SHIFT 2』より

アウトプットのためには長期のインプット期間も必要。当たり前のことで、大賛成です!!

「空白期間」の人生への取り込みは、サステイナブルな働き方や生き方の鍵になりそうです。

これらの本を読んだ個人や企業人が、これからの生き方、企業や社会のあり方へとシフトチェンジをはかり、あるべき社会をつくり、生きられるようにしたい。そう思いました。

人生100年時代を生きる覚悟と準備……みなさまはできていますか?


※ パーソル総合研究所「第二回 副業の実態・意識に関する定量調査」
 


文/霜田紗苗