過ちを犯した妻が痛感した、自分に足りないものとは?


「公開講座に行くと、肩書きも年齢も関係なく、ただ文学論に興味がある人と自由に会話ができました。それが本当に心地よくて、楽しくて。中でもとても気が合う大学院生の男の子がいて、彼とは本当に会話が弾んだんです。講座のあとで、立ち話を1時間も夢中でして、別れた時には手に持っていたコーヒーを一口も飲んでいなかったことに気がつきました。

ああ、私、ずうっと寂しかったんだと思い知った瞬間でした。

それからもその年下の男の子と講座仲間としてみんなで飲みに行くたびに、思う存分、語り合いました。最後の日に、ホテルに誘われたとき、先のない関係だと承知していましたが、一緒に行きました。それまでの人生で、彼氏や夫を裏切ったことはありませんでした。むしろそういうのを嫌悪していたので、自分がそういう間違いを犯したことは一生忘れないと思う。

帰宅してから、誰もいない部屋に戻って一番に思ったのは、『あんなにおしゃべりが楽しかったのに、もう彼とは会えないんだな』ということでした。それでもう、色んなことに対して覚悟を決めました」

 

1週間後、珍しく早く帰ってきた英明さんに、香織さんは離婚してくださいと頭を下げたそう。

 

彼の両親や彼が学歴を振りかざすとき、胸が痛かったこと、特権意識に同調できないこと、自分なりの覚悟を持って転居し、家庭に入ったにも関わらずバカにされて苦しかったことを、ありのままに伝えました。そして浮気をしてしまったことも告げたと言います。

当然英明さんにとっては青天の霹靂。ポカンとした後、しかし正面から向き合うことはなく、香織さんをひたすら避けるようになりました。