土壇場で出た本音


「裏切った私に言えることではありませんが、その対応も私の想像を超えていて、苦しかったです。半年後、どうしようもないので双方の両親も交えて話し合いを頼みました。義両親の怒り狂いようは凄まじく、『これだから学がない人間は!』と面と向かって言われました。その時だけは、ようやく本音が出たなあとちょっとだけ笑ってしまいました。

結局、独身時代からの個人的なありったけの貯金500万円を彼に渡して、離婚しました。せめてもの謝罪の気持ちでした。彼は裏切った私にはもう執着することはなく、淡々と手続きは進みましたね。そして身一つで東京に戻ってきたら無職のバツイチアラフォー、全財産は20万円ほど。主婦の時は、『いつかまたテレビの世界で働きたい』なんて夢見ていましたが、そんなこと言っている場合じゃありません。派遣社員として明日の生活費を稼ぐ毎日です。自業自得ですよね。

でも、離婚したことは後悔していません。けじめをつける前に浮気をしてしまったことは最低です。順番が違いますよね……。でも、長女体質というか、無意識に無理をしたり我慢したりしてしまう癖がある私は、自分が人生で本当に何を求めているのかをその過ちがきっかけで気づきました」

 

離婚後、英明さんと連絡を取ることはありますか、と尋ねると、香織さんは「全然ないんですけども」言いながらスマホを取り出しました。開いたSNSのアカウントには、つぶやきがびっしり。よく読むと、なんとそれは「サレ夫の暴露日記」。当時、香織さんが送ったメッセージや、香織さんのご両親が英明さんに送った謝罪のメール、香織さんと友人のやりとりなどが無断でコピーされ、晒されていたのです。

 

これは弁護士に相談した方がいいのでは、と言いましたが「妻がこんなにも非道だと説明して共感を得るためで、個人情報に関わるところは伏せられていました。もはやこれで彼の鬱憤が晴れて前向きになるのなら、それでいいかな」と香織さん。

「衝撃を受けましたが、このアカウントを見てはじめて、彼の本音がわかったんです。まあ、ほとんど呪いレベルなので、修復したいとかそういうことではないんですが……。私、やっぱり言ってくれないと分からないし、嫌なことでもぶつけて欲しいタイプのようです。こうして客観的に読むと、私はエネルギーが余っていて、家庭だけ、一人だけに全てをフォーカスするとバランスが崩れるんだなと思いました。

英明さんも、最近では素直な愚痴がSNS上で応援されていて、発信することで共感を得るコミュニケーションの楽しみを見つけたみたい。私の悪口だから複雑ですけど(笑)。風の噂ですが、職場で彼女もできたようです。本当に勝手な言い草ですが、離婚を通して彼にも少し変化があったような気がしています」

香織さんの言葉には、結婚生活を円滑にするエッセンスが含まれていました。

人生の軸足、つまり拠り所や楽しみを複数作ること。自分の性格や特性、欠点を理解して、折り合いをつけて人生をハンドリングすること。岐路に立った時、そのことを意識してみるのも一つです。

結婚生活が一点の曇りもなく順調そのもの、という方のほうが少数派。悩んで迷路に入り込みそうになった時には、「人生の軸足を増やす」という観点を思い出しながら視野を広げ、少しずつ進んでいけたらいいですね。


取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙

 

 

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