「ゆくゆく覇者になるのは私」


「そんなこと。結婚してしまえばこっちのもの。ご両親が反対しても、高志さんは私に夢中でしたし、院長の妻になれば少しずつ家庭内の権力は私に移ると確信していました。お義父さんは医者にはなれずお酒を飲み過ぎて療養中。そのぶんお義母さんは高志さんに執着していました。当然です、ご両親も彼の妹も、病院のスタッフとしてお給料をもらい、彼が唯一の稼ぎ手でしたから。

ゆくゆくは、家族経営の病院の実権は私が握る。それが私の母と私の観測だったので、とにかく気に入られるように、ひたすら耐えて、『年増の嫁でごめんなさい』とお義母さんたちを立てました」

 

凛子さんとお付き合いする前は、週6日の診察が終わったら、3階の実家に戻って寝るのが日課だったという高志さん。通勤もなく、趣味は昔の映画を観ることだったので、極端に外出が少なかったそう。

 

それが一転、診察を終えると、朝自室で用意した「お泊りセット」を抱えて、そのまま駐車場に直行、都心の凛子さんのマンションへ。実家ゾーンには寄り付かなくなっていました。

「イライラしたお義母さんから夜中に着信20件、ということもありました。遅れてきた反抗期みたいな息子に、ついにはご両親も折れて、私は嫁として迎えられることになりました。

その時の達成感といったら……。やり切った、ついにミッションをクリアした、と喜びを嚙みしめて涙を流しました。愛する人と結婚できる、という感じは……正直に言ってあまりありませんでした。

その報いは、その後、たっぷりと受けることになります」

お話を伺っていくと、「結婚相手を選ぶ」というのは予想以上に育った環境や家庭に影響されることを痛感しました。親御さんにしてみれば子どもに幸せになってほしいという気持ちからのことでも、「こうならないと幸せになれない」という思考は、子どもを苦しめる可能性があります。

生まれ育った家庭は、結婚生活のイメージに直結するもの。親の言葉と一体化した刷り込みから逃れるのは容易ではありません。高志さんも凛子さんも、実家の幻影から抜け出せないまま結婚をしてしまいました。

後編は、念願の「医者の妻」としての生活と、予想の上をいく義母の行動、そしてご夫婦の選択について伺います。
 


写真/Shutterstock
取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙
 

 

 

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