孤独な主婦に囁く「秘策」


「え? そんな集まりがあるんですか?」

三田村さんが淹れてくれたハーブティと、持ってきてくれたアイシングクッキーをいただきながら、私は思わず手を止めた。彼女の手作りだというクッキーは、キャラクターやバレリーナの形、トウシューズ、リボンなどがパステルカラーで描かれていて、どう見てもプロのレベル。感激を伝えると、三田村さんはまたしても耳よりな情報を提供してくれる。

「私もその『サークル』でお料理やこのクッキーづくりを学んだんですよ。メンバーは同世代から少し上の方もいて、先生は持ち回りをしたり『外部のチーム』から来てもらったりして、毎週さまざまなコトを習うんです。全て無料だし、何よりも応援隊がくるので、子連れOKなんです。他の方が見ていてくれますから、奥様はゆっくりと習い事感覚で。少し遠いから、もしご希望でしたらば私の車で行きましょう。もちろんこちらに伺うお仕事以外の日で。上のお坊ちゃまが幼稚園に行っている間がいいかもしれませんね」

 

「わあ、素敵、そんないいお話があるんですね。ぜひ行きたいです! 気分転換しなくちゃ。家にひとりでいると、ろくなこと考えないから……」

子連れで行けて本当に気分転換になる場所、などほとんど存在しない。インドア派の私は、最近ではとにかく会話に飢えていた。手作業をしながら新しい友達と、苦労を共有し、語りあえたら、どんなにいいだろうか……。

 

「ご主人様の件ですね? まったくあちらの様子が見えないのは、本当にもどかしいですよね……。1度でもあちらに行ければ、奥様の存在を喧伝して、悪い虫を払うこともできるのに」

三田村さんは悲しそうに眉間にしわを寄せる。このところ連絡がそっけないと相談し、夫からのメッセージを見せて以来、彼女は夫の不貞に警戒するようにと強くアドバイスをしてくれる。私が呑気だから、舐められているという言葉には、妙な説得力があった。

「三田村さん、私も世界を広げたいんです。ぜひその会合にお邪魔させてください」

三田村さんはにっこりと笑って、ハーブティのお代わりを淹れてくれる。

「もちろんです、奥様。その『サークル』には、『素晴らしい御方の話』をしてくれる先輩がたくさんいるんですよ。そうそう、ちょっと『運命が観える人』もいて、皆心配ごとがあるときは観てもらいます。御礼はいくらか渡しますが、皆不安が解消されると大喜び。心のエステみたいなものです。淋しさや不安は、どんどん共有しなくてはね。きっと連帯感が強まって、『新しい仲間』ができます、奥様ならば」

私は、三田村さんの言葉に安心して、うっとりとハーブティを味わう。三田村さんが来てくれるようになってから、本当に助けられている。

スマホが震えて、珍しく夫からの着信だった。出るのは2回に1回ほど、こちらも忙しく充実しているという様子が大切なのだと三田村さんは言ったが、確かに私だけがいつでもかってくる電話にしっぽを振って出るなんて不公平。スマホはやがて振動を止める。

小さな達成感を感じて、私は笑みをこぼした。新しい『仲間』とはどんな人たちだろう。三田村さんはいつものように、三日月のような目をさらに細くして、微笑んでいる。

ありふれた日常に潜む、怖い秘密。そうっと覗いてみましょう……
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イラスト/Semo
構成/山本理沙

 

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