誰の人生にも「物語」があります。


人は、成仏できない物語があると辛い気持ちになり、前向きな物語を描けないと落ち込んだりモヤモヤしたりします。


この連載では、心理学者でキャリアコンサルティング技能士の杉山崇先生が、「物語」という名のライフキャリアを整える方法を皆さんにお伝えしていきます。

 

今回は、転職をめぐる立場の違いがもたらす「物語のズレ」をテーマにしたいと思います。転職に限ることではないのですが、複数の人が協働して描く物語の積み重ねで現代社会は成り立っています。

ここで、お互いに描こうとしている物語がシンクロしていればお互いに居心地の良く物語が描けます。しかし、大変残念なことなのですが、立場の違いから描きたい物語がズレてしまうことが多いのが現実です。

さて、転職をめぐる物語の中ではどのような物語のズレが生まれやすいのでしょうか。ここでは、転職希望のクライエントという立場と転職エージェントという役割のズレから考えてみましょう。

 



エージェントとは相談者の力になるもの
 

エージェントとは相談者の味方であり、助けてくれる、守ってくれるパートナーです。転職エージェントに勤める方の中には、相談者の力になりたい! とがんばっていらっしゃる方もたくさんいます。
私も真摯に相談者に向き合っておいでの方々をたくさん知っています。転職エージェントに感謝している相談者も少なくありません。

ただ、転職エージェントとの面談で複雑な気持ちに陥って心理的なダメージを受けたという方も散見されます。中には傷ついた…⋯と訴える方も。
実際、私も転職エージェントに複雑な感情を抱えてしまった方のご相談を受けたこともあります。

言うまでもないことですが、心とは傷つきやすいものです。私の研究では、特に粗末な扱いをされた気持ちになると誰でも傷つきます。転職エージェントは決して相談者を粗末にしようとしているわけではありません。ですが、時に相談者にそのように感じさせてしまうことがあるようです。

転職エージェントという役割の難しさ

 

では、なぜ転職エージェントとの面談で相談者が傷つくことがあるのでしょうか?


転職エージェントには国家資格キャリアコンサルタントのホルダーもたくさんいます。国家資格キャリアコンサルタントは国が定める厳正な基準で審査されています。


人を傷つけるようなことがないように、カウンセリングスキルの訓練も受けています。実技試験もあります。人の力になれると評価された方だけがこの資格を得られるのです。なのに、なぜ、転職エージェント面談で傷つくことがあるのでしょうか?

この答えは転職エージェントという立場と役割にあります。人は立場と役割で大きく変わるものなのです。

人は「役割」にそって行動する生き物

ちょっと話が変わりますが、TBS『天才たちのドッキリ 叡智の無駄づかい』という番組でクズっぷりを売りにしている芸人さんを心理学の力で良い人にしてしまおう…⋯という企画に協力しました。そのときに活用したのが心理学で言う『役割効果』です。


人は役割を与えられると無意識のうちにその役割にそって行動しようとしてしまう性質があります。なので、普段は根っからのクズっぷりを発揮している芸人さんであっても正義の警察官やスーパーマンという役割を与えてその気にさせると、いつもとは違う正義感あふれる行動を取るのです。


さて、ここで転職エージェントに話を戻します。転職エージェントは「転職」という目的を達成させる役割を持っています。この目的を早く確実に達成させられないと、転職エージェントはエージェントとして評価されない世界に生きているのです。

 
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