「利害関係の一致」で成り立つ夫婦


「不妊治療は人工授精2回、体外受精を3回しましたが、結局2人目は授かりませんでした。かすりもしなかったです」

治療は夫婦協力して進めていましたが、計5回目で妊娠ができなかったとき、夫婦は話し合うこともなく、自然と治療をやめたと言います。

「もしかしたら、ある意味夫と私は似た者同士なのかもしれません。不妊治療をやめるときも、娘の前だとごく自然に仲の良い夫婦になるのも、ある程度の自由をお互いに認めて無駄な詮索をしないところも、何となく阿吽の呼吸でこなしてきました。お互いの両親の前でも愛想良く過ごすし、家族イベントもマメにこなしてきて」

静香さん曰く、周囲の夫婦の話を聞いていると、「愛憎」という言葉があるように、何かと喧嘩やトラブルが起きる夫婦は、少なくともどちらかに良くも悪くも愛があるからこそ相手が憎くなり関係がこじれているように見えると言います。

一方で静香さん夫婦に関しては、もはや利害関係の一致だけで成り立っており、愛も情もない代わりに、不満が湧くこともない。当初の理想とはまるで違う夫婦関係だけれど、実はこれが「夫婦の正解」なのではないかと思い、特に深刻に離婚を考えたことはなかったそう。この時点では離婚のメリットも見つからなかったと言います。

「でも、やっぱり妊娠しなかったことは残念でした。毎回赤ちゃんができる淡い期待を抱いて、落ち込んで。メンタルも少し不安定になり、その間に不妊治療のことを年下の彼に話してしまったら、かなりびっくりさせてしまい別れることになってしまいました。当たり前ですよね。ライトな関係だったとはいえ、私の女の寿命が尽きたような気持ちになり、これもけっこう落ち込みました」

 

「社会復帰のきっかけをくれたのも彼だったし、なんていうか、30代も後半になると周囲でセックスレスの話を聞くことも多い中、女として評価してくれる男性がいることは私にとって自信や大きな支えになっていて。彼と別れたら、私はもう一生恋愛もセックスもできないかもと思ってしまい、若い頃の失恋とは違う喪失感がありました」

 

不倫についての言及はここでは控えますが、中年でのパートナーとの破局は、静香さんの言うように若い頃とは少し違う悲しみがあることが伝わります。

「ちょうどその頃、小学2年生になった娘も幼児感が抜けて大人びてきたこともあり、母親としても寂しさを感じる時期でした。そんなとき、会社の同僚に保護犬のボランティアの手伝いをしないかと声をかけてくれたんです」