親に却下された「昔の夢」を思い出した瞬間


保護犬という言葉はあまり聞き慣れておらず、また漠然と野犬や雑種犬のイメージがあったという静香さんですが、同僚の説明を聞くと、そこには様々な事情で集まったペットショップで売られているのと変わらない犬たちがいることを知りました。

「まずは試しに、保護犬の譲渡会のごく簡単なお手伝いをしました。そしたら、もうとにかくワンちゃんたちが可愛くて……。昔からずっと犬と暮らすことに憧れていたけど、親の許可が出ずに飼えなかったことを思い出してハッとしました。実は高校生の頃、あまりに犬が好きすぎてトリマーの専門学校に行きたいと親にお願いしたのですが、当然ながら却下。以来、犬への憧れを忘れてたんです」

結果、その日は久しぶりに時間があっという間に過ぎ、静香さんは心が満たされた実感があったそう。そしてトントン拍子にその保護団体のメンバーとなりました。

 

「いろんな過去やトラウマを持ったワンちゃんたちを救ってあげたいという気持ちはもちろんありますが、そんな綺麗事ではなくて、犬たちに囲まれていると、ただ私が癒されるんです。柔らかい毛並みに触れて、粒らな瞳を眺めてるだけでも、身体の力が抜けてホッとできる。

娘もたびたび私と施設に通うようになり犬に慣れたし、せめて一匹は引き取りたいと意気込んでたんですが、なんとここに来て夫が『いや、無理。犬なんて所詮ケモノだろ』と拒否。彼とは初めて大喧嘩しましたが、あの可愛いワンちゃんたちを『ケモノ』なんて呼ぶ人がいる家に引き取るのもどうかと思い、一旦は断念することにしました」

 

しかしながらこの一連の経験を通して、静香さんは「老後は動物に囲まれてゆっくり過ごしたい」という夢を、他人から言われるのでなく、初めて自分でイメージすることができたそう。

「それで、将来犬と暮らすためにはやっぱり夫と離婚しなきゃ……と思うに至って。それに一度きりの人生、仮面夫婦で終わるのももったいない気もするし。なので、物凄く急いでるわけではありませんが、離婚できるように少しずつ準備を進めてるんです。

すでに話した通り、夫の浮気の証拠を今も集めたり、会社の社長には『もっとお給料が欲しいので、たくさん働くので社員にしてください』と正直に言ったら聞き入れてくれました。週末もワンちゃんたちと過ごしてるので忙しいですが、今、たぶん人生で一番充実しています」

離婚に意識が向いたきっかけがまさかのワンちゃんであることにはまた驚いてしまいましたが、夫婦間が一変する原因は本当に人それぞれです。

静香さんのお話を聞いていると、たしかに産後に「頭のネジが外れた」と言った意味はわかりましたが、それは悪いことばかりではなく、静香さんが世間のものさしで物事を判断するのをやめ、ご自身の心に正直になり始めたと言えるとも思いました。

もちろん婚外恋愛などは結婚制度上はNGですが、それを経て、静香さんがだんだんと自由な選択ができるようになったのは事実なのでしょう。

ちなみに昔の夢だったトリマーの資格も、近々通信教育で取得しようと考えているそうです。

あまり公にはできないお話を聞かせてくれた静香さんですが、今後、さらに充実した人生を過ごせるよう応援しています。

写真/Shutterstock
取材・文・構成/山本理沙
 

 

 

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