ひとりで解決できる力はないから「みんなと一緒に」

 

——そこから実際に、農業で起業しようと思ったのはなぜですか?

小林 新潟にある父の友人の棚田に、家族と一緒に農繁期だけ手伝いに行っているのですが、私の家族が体調不良になり、手伝えなくなってしまって。その村は最年少が65歳、十数世帯程度しかない集落でした。私たちが行けない、人手が足りなくなるということは、その村の農業も廃れていく方向にいってしまいかねない。高齢化の現状を見ても、おいしいものを食べられていたのは「当たり前」じゃない。お金を出したから手に入るわけじゃなくて、作る人がいるおかげで食べられるんだと気づきました。

今まで何度も通ってきた大好きなこの景色がなくなってしまう。美味しいお米がなくなってしまう。そう危機感を覚えて、初めて社会課題を自分ごととして感じました。どうしたらこの景色や味を守っていけるのかな……と考えるようになったんです。自分でやっていくには、植えられる苗の数もたかが知れているし、ひとりで解決できる力はない。自分だけじゃなく、みんなと一緒に持続可能な農業の形を探していかなきゃなと思い、起業しました。

 

「知らないことを誰かに聞くこと」を怖がらなくていい


——最初はPCの使い方もわからないところからの起業だったんですよね。

小林 起業に必要な書類を見たこともなければ、PCもわからなくて。人に聞かなきゃできないことだらけ。頭を下げて、聞いて、間違えて、勉強して、を繰り返していきました。農業のことも同じように、農家さんたちから教えてもらったりしています。聞くと、みんなすごくいろいろ知っていて、丁寧に教えてくれるんですよね。でも、そうやって誰かの力を借りることで、私が想定していたよりもよっぽど大きいことが達成できたりしたんです。自分一人で想像できることって、本当にちっぽけな範囲なんだと感じることがいっぱいありました。

——起業というとどうしても、まずは社長ひとりが頑張る、みたいなイメージあります。でも意外と、「人の力をいかに借りるか?」ということが大事なのかもしれませんね。

小林 人に教えてもらうことばかりでしたからね。行政手続きもそうです。「起業したいんですけど……」って行政の窓口に行って聞いてみると、みなさん優しくてちゃんと教えてくれました。「知らないことを誰かに聞くこと」を、あまり怖がらなくてもいい。そう感じましたね。最初はリスクも考えましたし、起業なんて大変だろうなと思ってもいたんですけど、協力してくれる人はいっぱいいるものだなって。