病名と余命がそう長くはないことを告知されて病院で泣いた私は、うさたと帰宅したあとも辛くて泣いていました。うさたも診察で疲れたと思うので、「ゆっくりしてね」と言って寝室に連れて行ったあと、別の部屋で少し仕事をしていました。仕事を片付けてうさたの元に行くと、彼は真っ暗な寝室で、香箱座りをしたまま、目を真っ赤にして、顎までびしょ濡れにしながら泣いていました。

うさたの特技は涙で、猫のくせに涙をこぼせるんです。今まで病院で、やさしくてかわいい先生たちの前で、おじさん顔のくせに涙を流して、あざとかわいいアピールをしていました。でも、この時のうさたは、余命を告知されて、彼なりに何かを感じていたのかもしれません。

目に涙をためるのは、うさたの得意技だけど……。

病名が明らかになり、治療方針が定まったのはよかったと思います。余命を突きつけられて思ったのは、ここまで長生きしてくれたうさたの寿命は、もしかしたらもっと短かったかもしれないということ。いざという時はやたらと漢気あふれるおっさんなので、自分が突然逝ってしまうと私が立ち直れないだろうから、身を挺して準備期間を用意してくれたのかもしれないと。

 

9月初旬、うさたが体調を崩して一時的に病院に預けたことがありました。動揺が隠しきれず、泣きながら炎天下を歩いていた私は、ふと氷屋の軒先にある「氷」の暖簾が目に入りました。導かれるように店に入り、メソメソしながらかき氷を食べていると、お店の年配の女性が、「少しは涼しくなりましたか?」と声をかけてくれました。思わず「悲しいことがあったけど、気持ちが落ち着きました」とお礼を言うと、その女性は「悲しいことって?」と聞き返してくれました。

あいさんはうさたの下僕。「撫でろ」と言われたらいつまでも撫でる。

そこで私はうさたの話をすると、その女性は、店のお客さんで飼っていた犬を亡くした方の話をしてくれました。その家のおばあさんが犬を相当かわいがっていて、なかなか火葬しようとしなかったそうです。そこで家族はかわるがわるこの店にドライアイスを買いに来て、なんと四十九日までその姿を留めたというのです。おばあさんは「ほら見て、かわいいまま」と毎日撫でていたそうです。さすがにそんなに長く火葬しないのはどうかと思いましたが……。お店の女性は、「発泡スチロールの箱は用意しておくといいよ。ただし、魚が入っていたやつは臭いがするからだめ、うちは氷屋だからドライアイスもあるから、その時が来たらね」と、一生懸命励ますように教えてくれました。

私がこの日、この氷屋まで歩いてきたのは、うさたを見送るためにこうした準備も怠らないように、ということだったのかもしれません。新品の発泡スチロールの箱を購入し、ペットの葬儀場も調べて決めました。いまは「準備万端いつでも来るな!」の気持ちでいます。

もちろん少しでもこの時間が長く続けばいいのですが、同時に、無理してまで頑張らなくてもいいよ、と思っています。うさたに先導されて寝かしつけてもらい、朝、目が覚めると、しょぼしょぼした目でおっさんくさい顔をしたうさたが横にいる。撫でろ、尻尾の付け根をトントンしろと要求すれば、いつでも要求に応じる。これはずっと前からだけど、毎日「ありがとう」「愛しているよ」と言葉で伝える。よく考えたら、彼や家族にもそんなことを言っていませんでした(笑)。

猫生のアディショナルタイムをできるだけ穏やかに過ごせたらと思う日々。今はただ、お互いの加齢臭を吸っていたい。

穏やかな寝姿のうさた。鼻も肉球もきれいなピンク。

イラスト/Shutterstock
文・編集/吉川明子 

 

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