リスキリングは「すべての働く人」に関係する

 

川良 キャリアという言葉に対して、「自分には関係ない」と感じてしまう方も多いのですが、アメリカでは「歩んできた道」「人生」といった意味合いでも使われます。日本ではキャリア=ハイキャリアと捉えられることが多いために、「私には誇れるキャリアはないから」とどこか他人事に感じてしまう。リスキリングも同じように、「リスキリングするほどの仕事でもないし」「私には関係ないかな」と、自分とは遠いものとして捉えていらっしゃる方も少なくないと感じます。後藤さんはどう見ていますか。

後藤 英オックスフォード大学で人工知能の研究に携わるマイケル・オズボーン教授らが、2014年に「The future of Employment」という論文を発表しました。その論文には「今後20年以内に、米国の総雇用者の47%の仕事がAIとロボットによって自動化される」と述べられていたことで日本のメディアでも注目されたのですが、それでも日本では遅々としてデジタル化が進まなかった。そして、いつの間にか忘れ去られてしまいました。

海外、特にデジタル化が進んでいるアメリカでは、テクノロジーの導入によって生産性が飛躍的に向上し、今やAIやロボットを使わなければ仕事ができない、という体制になっています。日本との差は大きく開いてしまいました。ですが今は、日本で働く人たちの中にも「自分の仕事はこれからどうなるのか?」という不安が出てきていますよね。これから急速に、業種を問わず全方向にデジタル化の影響は及びますから、リスキリングは決して「私には関係ない」ものではなく、今働いているすべての方たちに関係するものだと思います。

 

リスキリングは「企業が就業時間に行う」のが正解

 

川良 ミモレの読者の方からは、「そうはいっても、今からITスキルの習得はハードルが高くて……」とか、「今までそういう仕事ではなかったから想像ができない。でもやった方がいいのでしょうか」という不安の声をよく聞きます。リスキリングを推進する後藤さんは、そうした非IT系のお仕事だった方でも、たとえ40代や50代からでも、新たなデジタルスキルを習得できると考えていらっしゃいますか。

後藤 「もちろんできます」とお伝えしたいです。私自身がまさに、40歳まではデジタル分野やテクノロジー関連の仕事ではありませんでした。ですが今では、AIのスタートアップの日本代表もやらせていただいています。まさに、非ITからのリスキリングによって、40代でデジタル分野に移行してきたわけですね。

ただ、「個人が、自分一人で、自主的に」非ITの仕事からデジタル分野に移行するというのは相当大変です。子育てをしながら仕事をして、週末や、子どもが寝静まった夜遅くに眠い目をこすってAIの勉強をする――。そんな学習方法は、よほどモチベーションの高い方でないと続きません。そろそろ日本も、「リスキリングは自助努力によるもの」という考え方を改めないといけない。海外で広まったように、企業などの組織が“就業時間内”にリスキリングを実施して、デジタルの業務に必要なスキルを身につけていく。そうした仕組みが、日本でも急速に求められていると思います。

川良 個人に学ぶ努力を求めるのではなく、むしろ企業にリスキリングを働きかけて、組織として学びのシステムを作り上げていくのが、正しいリスキリングのあり方なんですね。