復讐よりも愛を選んだのに…


「もうまもなく弁護士さんが彼の自宅と会社に内容証明を送るところだったので、いったんそれをやめて欲しいとお願いしました。やっぱりまだ彼のことが好きだし、争うよりも、もう一度信じたい。彼は離婚すると言ってるし、しばらく待ちたいと……正直な気持ちを弁護士さんに伝えました。

すると、ものすごく叱られてしまって。というのも、そもそも私が『貞操権の侵害』で彼を訴えるためには『彼が既婚者であることを私は知らない』のが前提です。だから彼には絶対に何も言ってはいけない……というか、実はその少し前から接触も禁じられてたんです。

私が彼にすべてを話してしまった時点で、計画はすべて水の泡になりました」

美咲さんは弁護士に手付金を20万円ほど払っていましたが、これも無駄になってしまいました。また、これまで支えてくれた友人も、さすがにこの美咲さんの行動には言葉が出なかったようで、「人の幸せはそれぞれだよね……」と言い残し、それ以降はあまり連絡をとっていないそう。

復讐よりも愛を選んだ……と言えば、美咲さんは必ずしも悪い選択をしているわけではないかもしれません。ただ、とはいえ和也さんが既婚者という事実は変わらず、2人は不倫関係。いくら気持ちが本物であっても、周囲に前向きな受け取られ方をされないのはもちろん、美咲さんご自身がそこで満足できるわけでもありません。

 

「みんなに見放されてしまったし、相談できる人もいなくなりました。でも、彼はなるべく早く奥さんと別れて結婚したいと言って、これまでよりさらにマメに連絡をくれ、私に会いに来るようになりました。たぶん、真実を知っても彼を受け入れたことで、なんと言うか、絆が強まったような感じもあって……」

 


障害により恋愛感情が掻き立てられる、いわゆる“吊り橋効果”というのは本当なのかもしれません。(心理学の実験で、吊り橋の上のような不安や恐怖が高まる状況に身を置くと、そのドキドキが一緒にいる人の魅力により引き起こされていると誤って解釈し、通常時よりもその人物が魅力的に感じる現象)

実際、2人の愛はむしろ深まってしまったようですが、しかし和也さんがすぐに離婚する気配はありませんでした。

「離婚はしたいけど、現実的に難しいと彼は言っていました。奥さんは専業主婦で無収入なので、子どもの養育費や財産分与など、きちんと準備しないとかなりの額を払うことになるからと……。

でもそれだけでなく、彼は若干開き直っているような感じもありました。私の前で平然と子どもたちの写真を見て運動会がどうとか習い事がどうとかいう話をしたり、さらには『今週は嫁と子どもたちが実家に帰省してるからうちに来ない? 美咲の手料理が食べたい』なんて言い始めたんです」

当然ながら再び喧嘩が増えるようになり、美咲さんはやはり別れを考えるようになりました。そして売り言葉に買い言葉で「やっぱりあなたに騙されたぶんの慰謝料を請求する!」と言うと、和也さんは逆上。

彼は信じられないものを持ち出したのです……。