イム・ヨンウンが韓国でBTSを凌ぐ人気を得ているのは韓国のノスタルジアや家族等、色々な意味での「愛」というヒューマニズムを歌っているから


――『トロット・ガールズ・ジャパン』というタイトルを聞いた時は、日本人が韓国語でトロットを歌ったり、演歌を歌ったりする番組だと思っていました。でも実際は、昭和や平成の歌謡曲やシティーポップを歌う番組だったので、意外で驚きました。

チョン:コンセプトは私が考えたのですが、捉え方にもよりますし、何が正しいかというのは、ちょっと難しいですね。今のトロットは演歌とは違うので。韓国でトロット歌手として大人気のイム・ヨンウンさんが歌っているのは、伝統的なトロットや演歌ではありません。トロットといううつわはすごく大きくて、いろいろな曲が入っています。彼が韓国でBTSを凌ぐ人気を得ているのは、共感の幅が広いからだと思います。韓国のノスタルジアや家族等色々な意味での愛というヒューマニズムをイム・ヨンウンさんが歌ってくれているので、みんなが好きなのではないでしょうか。そこには歌謡曲もシティーポップも、ロックもダンス音楽も入っている。日本で例えると美空ひばりさんもトロットだし、中森明菜さんも、中島みゆきさんも、井上陽水さんも、すべてトロットに含まれるのです。

――日本でも昭和歌謡が人気ですが、30~40年前の曲が人気の理由は何だと思いますか。

チョン:やはり音楽、歌詞を含めた楽曲がいいからだと思います。長い間生き残って来た背景には、人々にしみる何かがあったのでしょう。アイドル音楽は強烈なパフォーマンスや歌によって、魅力に惹かれるもの。一方、ずっと生き残った音楽は、人間の普遍的なものを歌う心に響くのだと思います。歌詞もメロディーも。

だから、「忘れていたけれど、そうだった、こんないい歌があったんだ」というところに心が打たれるのではないかと。若い人が歌えば「オワコン」ではなくなる。受け継がれていくといいなと思う気持ちがあるのだと思います。

 

――今回日本で幅広い楽曲を含むオーディションをしましたが、手ごたえを感じた点はありますか。

チョン:トロットという音楽を日本で新たに定義づけて知らせ、若い人に応募してもらうということ自体に、乗り越えなければならない課題がたくさんありました。日韓のいろいろな方たちを説得しながら、途中でやめようと思ったことも3回ぐらいありました。企画から放送まで2年ぐらいかかりました。でも、日本の方たちも受け入れてくださって、曲を選ぶときも、「こういう曲もトロットなんだ」と理解していただけて嬉しかったです。


インタビュー後編は3月31日公開予定です。
 

 

取材・文/桑畑優香
構成/露木桃子