女の敵は女ではなく、みんなこの地獄を変える仲間
 

これだけでもすでに最高のエンパワメント作品なのですが、『虎に翼』の魅力は、寅子以外のあらゆる女性たちの生き方も取りこぼすことなく描いていることです。

家庭を守るために生きてきた母のはるは、寅子にとっては真逆の人生。つい感情的になって「お母さんみたいな生き方じゃなくて」と母を否定するようなことを口走ったこともありました。

でも、母が誰より優秀であることは寅子がいちばんよくわかっている。そして、はるもまた娘が優秀であることをよくわかっている。だからこそ、嫁のもらい手を失う未来を案じた上で、「私は私の人生に悔いはない。でも、この新しい昭和の時代に、自分の娘にはスンッとしてほしくないって、そう思っちゃったのよ」と寅子が法律の道に進むことを許します。

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良妻賢母として生きる道も、職業婦人として生きる道も、どちらも否定しない。女の敵は女ではなく、戦っている場所は違えど、みんなこの地獄を変える仲間。その眼差しが一貫しているから、きっとどんな立場にいる方がご覧になっても、自分の人生を肯定してもらえているような気持ちになるんじゃないかと思います。
 

 


2週目に入り、出てくる女性たちはますます多様化。授業が終わった後は、女給たちを目当てに男が集まるカフェで働く男装のよね(土居志央梨)。名家の生まれゆえに母の寿子(筒井真理子)から厳しい締めつけを受ける華族令嬢・涼子(桜井ユキ)。弁護士の夫(飯田基祐)から冷遇を受けながらも法律家の道を目指す梅子(平岩紙)。朝鮮半島からの留学生・崔香淑(ハ・ヨンス)などバックボーンは様々。まだ詳細はわかりませんが、それなりに裕福な家に生まれ、温かい家庭で育った寅子には想像もつかないような「地獄」を見てきた人たちであることは間違いなさそうです。

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きっと『虎に翼』なら、彼女たち一人ひとりを、物語のための駒として扱うのではなく、この時代を懸命に生きる女性として、しっかり描いてくれるのでないかと期待しています。

なぜなら、『虎に翼』はこれまでもメインキャラクターだけでなく、ちょっとした通行人すら奥行きを感じさせる描き方をしてきました。